なぜ原爆投下シーンを描かなかった…? アカデミー賞最有力候補『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督の言葉を紹介
発表以来国内で物議を醸してきたクリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』だが、ひとまず3月29日にR15+指定で公開という形で決着がついたようだ。しかし、本作は、原爆の生みの親を主人公としながらも、実際に原爆を投下したシーンは描かれていない。今回はその知られざる理由を、米Colliderを参考に紹介しよう。
「オッペンハイマーという人物を描きたかった」
クリストファー・ノーランの最新作『オッペンハイマー』は、第二次世界大戦の恐怖に終止符を打つべく、米国が極秘裏に進めた原子爆弾開発計画を描いた3時間のスリラー映画だ。本作に登場する人類史上最恐の破壊兵器、原子爆弾の恐怖は、本作の物語にも暗い影を落としている。
しかし、作中では、原子爆弾が実際に使用されたシーンは描かれていない。人類史上初の核実験であるトリニティ実験の様子は描かれているものの、広島と長崎に原子爆弾が投下される様子は一切描かれていないのだ。
仮にも、原爆の生みの親を描いた映画である以上、実戦使用のシーンは必須であるように思える。では、ノーランはなぜ、原爆投下のシーンを映さないという決断を下したのか。彼は米Variety誌との対談でその想いを明らかにしている。
「実際にオッペンハイマーが原爆投下の事実を知るのは、投下前ではありません。彼は、一般の人と同様に、投下後に知ることになります。私は、この描写を通して、彼が、自身の仕事招いた予想外の結果に動揺する場面を表現したいのです。そのためには、何を見せるかと同じくらい、何を見せないかも重要になります」
ノーランが言うように、本作は、あくまでも、主人公J・ロバート・オッペンハイマーの視点から描かれている。つまり、彼自身が実際に原爆投下の場面に居合わせなかった以上、描く必要がないのだ。
そして、本作の観客は、オッペンハイマーの視点を追体験し、原爆がもたらした破壊や余波を彼と同じように真正面から受け止めることになるのだ。
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