なぜバカリズムはドラマ界の革命児となったのか? 独自の脚本術を徹底分析&考察。現役放送作家が天才芸人の創作術に迫る
ドラマ『架空OL日記』(2017)をはじめ、IPPONグランプリのチェアマンを務めるなど、マルチに活躍の幅を広げるバカリズム。2023年アジア最大級の番組アワードに日本人初となる最高脚本賞を受賞した。今回は、世間の時代に沿った、共感される人間関係や会話劇など、代表的なネタと比較しながら解説していく。(文・前田知礼)
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【著者プロフィール:前田知礼】
前田 知礼(まえだ とものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。
バカリズム作品に欠かせない「独白」
バカリズム脚本ドラマの魅力はなんだろうか? 魅力的なキャラクターに伏線回収、共感性の高いあるある、懐かしさのツボを心地良く押さえてくてる固有名詞のセンスなど、挙げるときりがない。そして、主人公による豊かな「独白」も、そんなバカリズムドラマの魅力の一つだろう。
モノローグ、心の声とも呼ばれる「独白」は、もともとは演劇よく用いられる手法で、脚本家業を始める前に作られたバカリズムのコントでもよく使われている。例えば、フジテレビ『爆笑レッドカーペット』(2008〜2010)でも披露された「中年とボタン」(バカリズムライブ『勇者の冒険』2008)は、次のような独白で始まる。
「自分の身体の思わぬところにホクロを発見することはたまにありますが、それと同じような感じで、ある日私は、自分の体の思わぬところにボタンを発見しました」
バカリズムが演じるのは、左腕の内側に謎の押しボタンを見つけた中年男性。この主人公の「独白」によってコントは進行する。ボタンを巡る男の悩みや、不良少年に絡まれるハプニング、そして意を決してボタンを押すまでの葛藤が、巧みな「独白」によってスムーズに語られる。
ネタ番組に来た番宣俳優がよくするコメントの一つに、「まるで一本の映画を見たような」があるが、それが大袈裟ではなく感じるようなストーリー性が、バカリズムの「独白コント」にはある。だからこそ、ショートネタ全盛期のネタ番組の観客にも受け入れられたのだろう。