「10年経っても見直す作品に」映画『記憶の居所』&『朝をさがして』、山下リオ、SUMIRE、常間地裕監督インタビュー
長編映画『この日々が凪いだら』(2022)で注目を集めた1997年生まれの新鋭・常間地裕監督の中編映画が立て続けに公開された。今回は常間地裕監督に加え、『記憶の居所』主演の山下リオさん、『朝をさがして』主演のSUMIREさんへのインタビューをお届け。それぞれの作品にかける思いを伺った。(取材・文:山田剛志)
山下リオ「独立のタイミングで熱いお手紙をくださった」
常間地裕監督との出会い
―――まず、常間地監督に両作の企画の発端から伺えればと思います。山下リオさん主演の『記憶の居所』(©Filmssimo)は、長さの異なる3つのエピソードを独自の構成で繋げていらっしゃいますね。
常間地 裕(以下、常間地)「そうですね。初長編映画(『この日々が凪いだら』)を経て、次に何ができるか考えていく中で、ずっと自分の中に持っていた記憶というテーマを掘り下げようと思いました。
劇中にゴッホ描いたプロヴァンスの田舎を思わせる絵画が出てきますが、本作の基になったのは、実際に僕がゴッホ展を観に行った際に、その時の印象を記憶に留めようと思って書きとめたメモ書きなんです。それは粗い小説のような形をとっていたのですが、それをそのまま映画化するというよりかは、五感を掘り下げたら面白いかもと思ったのが始まりでした。
ちなみに、山下さんに出演していただいた『味の話』では認知症のモチーフが登場しますが、実際に私の祖父が認知症だったんです。自分の経験など、様々な要素を集約して作り上げた作品です」
―――一方、SUMIREさん主演の『朝をさがして』(©︎Ella Project)は時事性が強い作品ですね。パンデミックの影響が物語に影を落としています。
常間地「『朝をさがして』は、youtubeドラマ『東京彼女』を映画にした企画です。コロナ禍が明けた直後は、自分の中で事態を咀嚼しきれず、作品に昇華しようという気持ちには
なれなかったんです。
『東京彼女』はエピソードごとに恋愛に加えて、もう一つテーマを設ける必要があるのですが、時間が経って意識が変わったのか、自然とコロナにまつわるエピソードが思い浮かびました。
とはいえ、意識的にコロナを描こうとしたというよりかは、コロナ禍で人々の心に溜まった思いや、居場所や距離を描きたかった。という言い方が正確かもしれません」
―――山下さん、SUMIREさんは、今回初めて常間地監督の作品に参加されました。最初に監督とお会いした時、どのような印象を受けましたか?
山下リオ(以下、山下)「監督に最初にお会いしたのは1年半以上前ですね。『記憶の居所』の本読みだったと思います」
常間地「直接お会いしたのはそのタイミングでしたね。その前に『出てください』みたいなご相談はさせていただいたんですけど」
山下「私は2022年の8月いっぱいで事務所を退所したのですが、独立のタイミングでお手紙をくださって。とても熱いメッセージを(笑)」
―――手紙にはどのような内容が書かれていたのでしょうか?
山下「私のお芝居を『素敵だと思っています』と。すごく自信を持たせてくれるような言葉をもらいました。直接伝えていただく機会って中々ないですし、脚本もとても素敵だったので、初めましての監督でしたけど、すぐに『仕事したいな』という気持ちになりました」
―――SUMIREさんは常間地監督と初めて会ったのはいつでしたか? また、最初に『朝をさがして』の脚本を読んだ時の印象も教えてください。
SUMIRE「私はオーディションで初めてお会いしました。台本の印象は、人間の心の奥底の部分が上手く表現されているということ。コロナがもたらした、やり場のない感情が上手く描かれているなと。オーディションで選んでいただいた時は、脚本に書かれていることをちゃんと表現しなければいけないな、という気持ちになりました」
―――ちなみにオーディションではどのシーンを演じられたのでしょうか?
SUMIRE「本編にもある、同棲している彼氏に別れ話を切り出すシーンです」
―――あのシーンはすごく良いシーンでしたね。このシーンに関しては、後ほど詳しく伺えればと思います。常間地監督は、オーディションでSUMIREさんのお芝居をご覧になってどのような印象を受けましたか?
常間地「事前に台本を読んでいただいた上でオーディションに臨んでくださったのですけど、作品の世界観を深く読み込んでくださっているのがすごく伝わりました。オーディション会場ってすごく特殊な空間なんですけど、SUMIREさんのお芝居からは景色が見えたんです。(主役の)美琴はSUMIREさんしかいないと、その場にいたスタッフが全会一致でした。
先ほどSUMIREさんは『選んでいただいた』という言葉を使ってくださいましたけど、僕からすると、台本を読んでもらって、ぜひ選んでいただきたいなと。逆にオファーを差し上げる気持ちでいました」