才能がヤバい…お笑い芸人が監督した最高の日本映画(1)唯一無二の輝き…世界が認める名監督の最高傑作とは?
軽快なトークで人々を爆笑の渦に巻き込む芸人たち。彼らの中には、肩書きを超越し、絵描き、物書き、アーティストなど、笑いの分野以外でも活躍する者が多く、中には映画監督としての才を発揮する者もいる。彼らの独特な視点には目を見張るものがあることから、今回はお笑い芸人が監督した映画ベスト5を厳選して紹介する!(文・野原まりこ)
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ジャンルを超越した圧倒的な才能
北野武『キッズリターン』(1996)
監督:北野武
脚本:北野武
出演:金子賢、安藤政信、柏谷享助、森本レオ、石橋凌。山谷初男、モロ師岡、大家由祐子、丘みつ子
【作品内容】
高校生のマサルとシンジは、いつも学校をサボっては気ままに過ごしていた。そんなある日、カツアゲをした高校生が助っ人として呼んだボクサーにボコボコにされてしまう。
マサルはシンジを誘いボクシングを始めるが、ボクサーとしての才能を発揮したのはシンジであった。ボクシングをやめたマサルは、ヤクザの世界へ進む。
別々の道を歩む2人は、それぞれの世界でトップへのし上がってゆくが…。
【注目ポイント】
北野武監督長編映画6作目、第49回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品作品である『キッズリターン』。青春時代の屈託無い輝きや気だるさと、夢破れて挫折した虚無感を丁寧に描写し、北野武監督作品の中で人気の高い作品の一つ。
国際的な評価の高さという点では、カンヌ国際映画祭の監督週間部門で上映された『ソナチネ』(1993)、ヴェネチア国際映画祭で最高賞となる金獅子賞を獲得した『HANABI』(1997)に軍配が上がる。しかし、芸人・ビートたけしの哲学の濃縮度に関して言うと、本作の右に出る作品はないだろう。
2人の若者を取り巻く人間関係や、落ちぶれていった者の人生と、マサルとシンジが悪い大人や楽な方に流されてゆく様に人生の無常さが滲む。こうした細やかな人物描写は、御都合主義を拒否し、リアルを志向する北野武の個性がストレートに反映していると見ていいだろう。
サブストーリーでは、マサルの同級生2人組がプロ漫才師を目指す姿が描かれる。舞台に立つ彼らを正面から捉えるショットよりも袖からそっと見つめるようなアングルのショットが際立つのは芸人ならでは。ちなみに、演じているのは、当時の“たけし軍団”の若手漫才コンビ・北京ゲンジだ。
音楽面、映像面の充実ぶりも目を引く。久石譲の叙情的かつ青春の胸の高鳴りを表現したような音楽、キタノブルーと呼ばれる北野武が好んで使う青みがかった色彩表現は一級品。
無常感に貫かれた物語と独自の美的感覚によって、北野武は唯一無二の輝きを放つ名作を作り上げた。
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