観る者に強烈な印象を残すラスト
『ヘレディタリー/継承』(2018)
監督:アリ・アスター
脚本:アリ・アスター
キャスト:トニ・コレット、アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダウド、ガブリエル・バーン
【注目ポイント】
悪魔を崇拝する人々を描いたとびっきり怖いホラーであり、なんの変哲もない家族が悲劇に見舞われるサマを描いた重厚な人間ドラマでもある本作は、『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスターのデビュー作であり、「21世紀最高のホラー映画の1本」の呼び声が高い1作だ。
本作は、主婦アニー・グラハム(トニ・コレット)が、母エレンの死をきっかけに、家族もろとも恐怖と狂気に支配されていく過程を描いている。
序盤からトラウマ級の描写が頻出する。アニーの息子ピーター(アレックス・ウルフ)は、妹のチャーリーを車に乗せ、友人のパーティーに向かう。しかし、ピーターが急にハンドルを切ったことで、窓から顔を出していたチャーリーの首が飛んでしまう…。開始早々から胸糞が悪くなること請け合いだろう。
娘を亡くしたことで悲しみに暮れるアニーは、カウンセリングで知り合ったジョーン(アン・ダウド)という老女の自宅に招かれ、交霊会に参加するようになる。実は、母エレンは生前、悪魔を崇拝するカルト教団のリーダーであり、ジョーンと親交があったことが後に判明する。
終盤では、儀式に参加し精神を病んだ息子・ピーターは、家中で起こる異様な出来事によってさらに追い詰められる。さらに追い討ちをかけるように、母アニー(トニ・コレット)が、ピアノ線で自らの首を切り落として死亡。
映画のラスト、あまりの恐怖にピーターは屋根裏部屋から飛び降り、失神する。しかし、邪悪な光が弱ったピーターに漬け込むように入り込み、彼は目を覚ます。そして、導かれるように小屋に入り、そこで母アニーと祖母エレンの首のない遺体が崇拝の座に置かれている光景を目の当たりにする。
信徒たちは、ピーターを悪魔パイモンの「新しい器」として迎え入れ、彼に冠をかぶせて「王パイモン」として崇拝。信徒たちの歓喜の声と共に映画は幕を閉じる。
本作のラストは、アリ・アスターが後に手がけることになる『ミッドサマー』のラストに通じるのはもちろん、ベトナム戦争を描いた傑作『地獄の黙示録』(1979)のエンディングも想起させる。多様な解釈に開かれているという点でも、秀逸な結末だと言っていいだろう。