10歳未満の少女も…“江戸の色町”吉原と遊女のリアルとは? 大河ドラマ『べらぼう』の理解が深まる豆知識を解説

text by 水野大樹

「江戸のメディア王」“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描くNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺~』(NHK総合)。物語を深く読み解くうえで、メイン舞台となる遊郭・吉原という街の背景や仕来り(ルール)、遊女たちの暮らしを解説する。(文・水野大樹)

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【プロフィール 水野大樹】

1973年生まれ。出版社勤務を経て、歴史ライターとして独立。おもな著書に『室町時代人物事典』『戦国時代前夜』などがある。

吉原とは江戸時代の売春街のことで、江戸唯一の幕府公認の遊郭である

『東都名所 新吉原五丁町弥生花盛全図』吉原の全景を描いた浮世絵。左下の門が大門で、重三郎の店はその先にあった。
『東都名所 新吉原五丁町弥生花盛全図』吉原の全景を描いた浮世絵。左下の門が大門で、重三郎の店はその先にあった。

 2025年NHK大河ドラマは、江戸時代中期~後期にかけての出版界をけん引した蔦屋重三郎の生涯を描く『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(以下『べらぼう』)で、1月5日に1回目が放送された。

 重三郎は喜多川歌麿や東洲斎写楽を売り出したことで知られ、そのほかにも山東京伝や恋川春町、朋誠堂喜三二、葛飾北斎など、日本文化史に名を残した錚々たる文化人とも仕事をしていた。

『べらぼう』第1回は、吉原を襲った大火事のシーンから始まった。重三郎は吉原生まれの吉原育ち。最初に出した店も吉原で、出版活動を始めてからは吉原関連の出版物も多く出しており、吉原と非常に縁が深い人物である。そのため、本ドラマも序盤の舞台は吉原となるようだ。

 吉原とは江戸時代の売春街のことで、江戸唯一の幕府公認の遊郭である。遊女や遊女屋(妓楼という)のほか、茶屋や一般の商店があり、芸者、職人なども住み、ひとつの町を形作っていた。

 吉原にはあらゆる身分の男性が訪れたほか、「遊女の衣装や髪形を見るために女性も吉原に出入りしていた」といい、花見などの季節には親子連れで来る客もいたという。

 第1話の冒頭で2人の少女が、火の手が迫るなかお稲荷さんを持ち出そうとするシーンがあるが、「吉原には、四隅に四つの稲荷社があった」といい、遊女たちの信仰の対象であった。

 第1回の放送で、重三郎は吉原の衰退を時の老中・田沼意次に陳情する場面がある。当時の吉原は、岡場所と呼ばれる遊女町に客をとられていたのだ。

 岡場所とは、「いわゆる非合法な遊女町」で、「天保(1830~1844年)以前には江戸だけでも四十から八十カ所も岡場所があった」という。

 岡場所は吉原に比べて格段に値段が安いうえに、吉原のような面倒なしきたりもなかったため、一般の町人などからの人気が高かったのである。

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