吉原のガイドブックこと「吉原細見」

『あふぎや内にほてる、なミぢ、あふミ』仲之町の茶屋の遊女。2人の禿を連れている。
『あふぎや内にほてる、なミぢ、あふミ』仲之町の茶屋の遊女。2人の禿を連れている。

 重三郎は吉原生まれだが、両親がどんな仕事をしていたかはわかっておらず、重三郎が7歳のときに両親が離婚したため、吉原で商売をする喜多川家の養子となった。喜多川家は蔦屋という引手茶屋を経営していたと考えられており、重三郎はここで育てられることになる。

 重三郎が育った引手茶屋は、遊女屋と客を仲介する場所で、「大見世で遊ぶには、引手茶屋を通さなければなら」ず、「引手茶屋を通すと、代金のすべてを引手茶屋が立て替えた」。

 重三郎は23歳のときに、吉原大門口の五十間道で書店兼貸本屋の「耕書堂」を開いた。第1話の冒頭で描かれた大火事(明和の大火)があった年である。

 最初の店は、義兄の次郎兵衛の引手茶屋の軒先を借りたものだった。

 ドラマの中でも重三郎が遊女屋へ貸本を持っていくシーンがあるが、「遊女は大門の外へ出ることができなかったので、楽しみが少なかった。そんな遊女の楽しみのひとつだったのが、貸本屋から借りる本であった」という。

 重三郎は版元として成功したあとも貸本屋は継続しており、当時貸本の需要は高かった。

 貸本とともに重三郎が当初手がけていたのが、「吉原細見」の小売りである。吉原細見とは、「遊女屋の名前と、それがどの町にあるのか、その遊女屋にはどのような遊女がいるのか、遊女の揚代はいくらか、といった情報が詰め込まれ」た吉原のガイドブックのようなものである。

 吉原細見を作っていたのは鱗形屋という老舗の版元で、日本橋大伝馬町に店を構えていた。

 重三郎が小売りした吉原細見で有名なのが『細見嗚呼御江戸』で、第2話でも描かれているように平賀源内(福内鬼外)が序文を書いている。

 男色家として知られていた源内が吉原の序文を書いたということで、この細見は評判になった。

 第2話で重三郎が、吉原細見を改めたいと鱗形屋に申し出て、遊女屋にどんな遊女がいるのかを調べる場面があるが、実際に重三郎は『細見嗚呼御江戸』の編集作業にも携わった。奥付にも「蔦屋重三郎」の名がしっかり記されている。

 江戸時代、多くのベストセラーを世に出しながら裏方に徹し、これまでさほど注目されてこなった蔦屋重三郎。

 出版活動を通じて江戸文化を演出し、吉原の復興に奔走した重三郎の活躍が今後どのように描かれるのか、非常に楽しみである。

※参考文献
安藤優一郎 監修『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 ―江戸文化から見た吉原と遊女の生活―』 カンゼン

【著者プロフィール:水野大樹(みずの・だいき)】
1973年生まれ。出版社勤務を経て、歴史ライターとして独立。おもな著書に『室町時代人物事典』『戦国時代前夜』などがある。

書籍情報

江戸の色町 遊女と吉原の歴史 ―江戸文化から見た吉原と遊女の生活―
定価:1,870円(本体1,700円+税)

絢爛豪華な遊郭・吉原のはじまりから終わりまで。
秘密の江戸歴史、遊郭の実態をわかりやすく解説していく。

吉原にはどんな人々が住んでいたのか、
遊女の一日とはどんなものだったのか、吉原ではどうやって遊んだのか……など、
遊女のルーツや吉原誕生までのいきさつから、吉原内部の実情、遊女の生活ぶりまで、
江戸文化の中心地となった吉原と遊女にスポットを当てて全貌を解説。
300年間公認の遊廓として栄えた町・吉原と、
吉原の主役・遊女の歴史と実像を知らずして江戸は語れない。

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【了】

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