知能犯罪捜査隊への取材によって練り上げられた見事な脚本
「闇バイト」をテーマにした異色作
『声/姿なき犯罪者』(2021)
英題:On the Line
製作国:韓国
監督・脚本:キム・ソン、キム・ゴク
キャスト:ピョン・ヨハン、キム・ムヨル、キム・ヒウォン、パク・ミョンフン
【作品内容】
元刑事のソジュンは、韓国・釜山の建設現場で働いている。愛する妻と同僚の30億ウォンを取り戻すために、詐欺組織のアジトに潜入する。そこでは総責任者クァクのもとで、詐欺集団が振り込め詐欺を行なっていた。しかし、新たに300億ウォン規模の詐欺計画を知ったソジュンが詐欺集団に復讐する。
【注目ポイント】
昨今、日本各地で強盗事件が相次いでいる。指示役は東南アジアに潜伏し、スマートフォンを通じて、日本国内の実行犯にコンタクト。詐欺集団の多くは、SNSなどで高額の時給を餌に実行犯を募っており、一度「闇バイト」に手を染めた者は、弱みを握られ、組織から抜け出せない。
本作の主人公は、振り込め詐欺の被害に遭い、大金を失った元刑事のソジュン(ピョン・ヨハン)。ソジュンは建設現場の作業員として働くかたわら、家族や同僚のため、奪われた金を取り返すため詐欺組織に潜入し、組織のトップであるクァク(キム・ムヨル)らに復讐する。
監督は、双子の兄弟キム・ソン&キム・ゴク。テーマは社会問題となっている詐欺犯罪。実際に詐欺犯罪を追う韓国警察の知能犯罪捜査隊への取材を基に作り上げた作品だ。日本でも、次々と新手のシナリオによって振り込め詐欺事件が起き、深刻な問題となっているが、本作を観ると、韓国も同様の問題を抱えていることがわかる。
本作はタイトルが示すように、携帯電話を使った振り込め詐欺をモチーフにしている。手を汚さず、声だけで金を奪い取る、卑劣な所業だ。どのようにして詐欺集団はターゲットを罠にハメるのか。その詳細もストーリーの中でわかってくる。わかってはいても、人の弱みにつけこんで大金を騙し取る、犯罪組織の策略は手が込んでおり、一つの詐欺集団を検挙したところで、また次の組織が生まれる。
大金を奪い取られる被害者の哀しみや絶望感もリアルに描かれており、詐欺集団への怒りが湧き起こると同時に、これが現実なのかというおぞましさも感じさせる。一方、犯罪に立ち向かう主人公ソジュンの勇敢さが光る作品でもあり、多彩な魅力をもっている。