ホラー史上最も有名な霊が残した「究極のジレンマ」

『らせん』(1998)

佐藤浩市
佐藤浩市【Getty Images】

監督:飯田譲治
脚本:飯田譲治
原作:鈴木光司
出演者:佐藤浩市、中谷美紀、松嶋菜々子、真田広之

【作品内容】

 自らの不注意で息子を亡くし、生きる気力を失った解剖医・安藤(佐藤浩市)は、変死した友人・高山(真田広之)の解剖をすることになり、胃の中から暗号が書かれた紙を発見する…。

【注目ポイント】

 1997年に公開され、「Jホラー」の名を世界に拡散した映画『リング』。ハリウッドリメイク版を加えるとゆうに10本の関連作品が制作された本作だが、実は続編があることをご存知だろうか。それが、本作と同時上映された『らせん』だ。

『リング』同様、鈴木光司の同名小説が原作になっているこの作品。しかし、物語の趣は『リング』とかなり異なっており、どちらかというとSFというべき作品に仕上がっている。

 主人公は、佐藤浩市演じる法医学者、安藤満男(佐藤浩市)。『リング』で貞子の呪いを受けて亡くなった高山竜司(真田広之)の友人である彼は、安藤の遺体を解剖中、天然痘ウイルスに似た未知のウイルスを発見する。

 つまり本作では、呪いが、単なる恐怖ではなく生存本能に基づいて新たな生命へと進化する「ウイルス」として描かれているのだ。

 しかしこれでオカルト要素が完全に払拭されたわけではない。終盤、追い詰められた安藤は、結局貞子の呪いを受け入れビデオを拡散。人類全体に呪いを広めてしまう。

 彼がとったこの選択は、個人的な願望と人類の未来を天秤にかけた「究極のジレンマ」であり、倫理的な選択と自己犠牲の問題を問いを観客に惹起するものだ。

 生命の自己本能と、生命倫理をめぐるジレンマ。本作では、この2つの問いが、ホラー映画の枠を超えた深淵な問いを観客に突きつけ続けている。

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