得体の知れない心の闇を描いた元祖ヒトコワ系ホラー
『オーディション』(2000)
監督:三池崇史
脚本:天願大介
原作:村上龍『オーディション』
出演者:石橋凌、椎名英姫、沢木哲、國村隼、石橋蓮司、松田美由紀
【作品内容】
独身のビデオ制作会社社長・重治(石橋凌)は、映画オーディションを開催し、応募者の中から再婚相手を選ぼうとしていた。そこで出会った24歳の麻美(椎名英姫)に惹かれていくが…。
【注目ポイント】
近年、ホラー映画では、「ヒトコワ」と呼ばれるジャンルが勃興しつつある。幽霊や妖怪といった超自然的な存在ではなく、生身の人間の怖さを描いた作品群を指す言葉だ。
ホラー映画が「得体の知れない恐怖」を描いてきたとすれば、このジャンル分けもあながち間違ってはいないだろう。『オーディション』は、そんな得体の知れない人間の心を描いた作品だ。
本作の主人公、青山(石橋凌)は、出会いを求めて架空の映画のオーディションを行い、その過程で清楚で控えめな理想の女性、山崎麻美(椎名英姫)と出会う。
しかし、物語が進むにつれ、幼少期に受けた虐待やトラウマやバレエ教室での厳しい指導などが顕になっていき、彼女自身が心に闇を抱えていることが明らかになる。
そして終盤、彼女の心の闇は、「痛みだけが真実」という信念に結実。愛する青山との完全な一体化を求める彼女による拷問という形で一気に開陳される。
しかし、本作には大きな謎がある。それは、「麻美の狂気は本当に過去のトラウマによるものなのか虐待によるものか」というものだ。
現に、本作を見た観客の声には、彼女の行動を過去の虐待の結果とみなして憐憫の情をよせる向きもあれば、純粋な悪意の結果と考える向きもある。また、青山に関しても、山崎をモノのように扱っている節があり、潔白であるとは言い難い。
男心と女心。それは、人間にとって最大にして永遠のホラーなのかもしれない。