「大切な思い出って、支えになるし、お守りになるし、居場所になる」

『anone』(日本テレビ系、2018)

広瀬すず
広瀬すず【Getty Images】

キャスト:広瀬すず、小林聡美、阿部サダヲ、瑛太、火野正平、田中裕子、清水尋也、江口のりこ、川瀬陽太、鈴木杏、蒔田彩珠

【作品内容】

 辻沢ハリカ(広瀬すず)は、過去の事件を機に家族と隔絶し、ネットカフェで暮らしていた。ある日、心を閉ざした老女(田中裕子)と出会い、互いの孤独を埋め合うように偽の家族として生活を始める。しかし、ある事件が起こり…。

【注目ポイント】

 広瀬すずが主演を務め、田中裕子、清水尋也、阿部サダヲなど豪華キャストが名を連ね「本当の家族とは何か?」をテーマに、偽札をめぐる人間ドラマが描かれている。

 親を失い社会から孤立してしまった少女ハリカ(広瀬すず)は、ネットカフェを転々としながら日雇いの仕事で生計を立てていた。一方、亡き夫が営んでいた印刷工場を守る亜乃音(田中裕子) は大量の偽札を発見し、処分しようとしていた。偽札をめぐってハリカは亜乃音と出会い、やがて亜乃音の家で共同生活を始める。

 心に傷を抱えるハリカと亜乃音のセリフの数々は、”マイナス”を”プラス”に変える力がある。例えば、亜乃音が「過去の自分は助けてあげられないから、せめて今を」とハリカに伝えるシーンがある。過去にとらわれるのではなく、今の自分を大切にして欲しいという亜乃音の優しさ痛切に伝わる。

 また、「大切な思い出って、支えになるし、お守りになるし、居場所になる」とSNSで繋がるカノンがハリカに送ったメッセージには、どんなに辛い状況にいても、思い出が支えとなり、心を守ることもある、ということを優しく表現している。思い出は感傷的なだけの無用物では決してない。今を生きる私たちをそっと支えてくれる存在なのだ。

 本作は血のつながりだけではない絆で結ばれた家族の形を描いており、それは他の坂元作品にも通底するテーマでもある。

 また、本作において、登場人物たちの言葉はどこか詩的でありながらリアリティに満ちている。静かに心に染み入る言葉と痛みを抱えながらも希望を求める人々の姿に心打たれる作品だ。

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