まろやかな空気感で調和する井之脇海の魅力

『晩餐ブルース』第3話 ©「晩餐ブルース」製作委員会
『晩餐ブルース』第3話 ©「晩餐ブルース」製作委員会

 前の場面では、脚本打ち合わせ風景が描かれている。作品テーマに対してあまりセンシティブにならずに制作しようとする上司に対して、若手スタッフたちが反論する。若手が風通しをよくしようと努める会議室で優太は上司に気を配りながら若手に賛同。

 まな板上の食材もデスク上の台本への書き込みも台本打ち合わせでも丁寧な扱い方に変わりはない。『あさイチ』での生放送調理で明確に示された手元の美しさが、主演ドラマでも細部の推進力となり、視聴者を誘導してくれる。

『べらぼう』第6回で、新之助が恋心を寄せる花魁・うつせみ(小野花梨)からきた文に目を通す場面もいい。ローアングルのカメラが裏から透けて見える紙面を捉える。その紙面に何が書かれているのか。横浜流星演じる蔦屋重三郎の説明とともに文面がアップで写る。今度は他者が書き込んだ紙面上に熱心な眼差しを注ぐ井之脇が、イマジネーションに溢れている。

 第7回では、うつせみに会いに行くための小遣い稼ぎとして、重三郎の細見作りを手伝う。度重なる書き直し作業に発狂寸前の新之助が、怠けて見ているだけの次郎兵衛に指を差す場面があり、井之脇が指先の表現をさらりと極める。この場面はアドリブだというのだから尚更あやざやかだ。

 場面は前後するが、地本問屋株仲間に、仲間入りしようとする重三郎との会話場面。昼の明かりが室内を満たすつたやで新之助はお茶を飲んでいる。右手に持つ茶碗。その手元と重三郎にクリアな眼差しを向ける新之助の目元との間に、有機的な距離の美学みたいなものが生まれている。

 新之助が「蔦重の吉原への思いは」と言う次のカットで重三郎は視線を下げて右手を顎につける。手元から目元にかける移動の美しさが、井之脇海から横浜流星へ流動するのだ。

『晩餐ブルース』第3話後半には名演技がある。食後のアイスを食べる場面。アイスの小皿とスプーンを持つ井之脇の手元と周囲に向けられる視線(目元)の連動が、まろやかな空気感で調和する。彼の手元と目元をひらすら面映くも愛でていたくなる。それが画面上に現前する井之脇海の魅力だと友人のひとりとしてぼくは思う。

(文・加賀谷健)

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