27年間温められてきた幻の映画
『箱男』(1997)
監督は石井聰亙
原作:安部公房
出演:永瀬正敏、佐藤浩市
製作中止から27年の時を経て公開された映画も存在する。それが『箱男』だ。原作は前衛的な作風で知られる安部公房の同名小説で、映像化は困難といわれていた。
監督は石井聰亙(現:石井岳龍)、主演は永瀬正敏。佐藤浩市の出演も決まっており、1997年に製作開始が予定されていた。永瀬はクランクイン前から、役に深く入り込むために「箱に入って生活する」といった方法で準備を進め、役作りに没頭していたという。
また、クランクインの1ヶ月前からは、永瀬らスタッフ・キャストがドイツ・ハンブルクに滞在し、撮影に備えていた。
しかし、クランクイン前日になって、製作資金の問題により突然撮影が中止に。まさに予想だにしなかった事態だ。この出来事に大きな衝撃を受けた永瀬は、気持ちの整理がつかないまま俳優業から一時離れ、復帰までに数ヶ月を要したという。
その後も「箱男」の映画化を諦めきれなかった石井監督は数年後、再び動き出すが、既に原作の権利はハリウッドにあった。しかしながら、パイロット版まで完成していたというが、結局ハリウッド版も日の目を見ることはなかった。
そんな中、2016年に再び原作権の承諾を得るチャンスが訪れる。まるで石井監督がこの作品を手がける運命だったかのようだ。
「安部公房 生誕100年」にあたる2024年の公開を目指し、脚本は“いながききよたか”と共同で手がけるところからスタート。1997年版と同様、永瀬正敏と佐藤浩市がキャスティングされ、さらに1997年版にはクレジットされていなかった浅野忠信がニセ医者役として加わり、2024年に無事公開された。
筆者も公開を心待ちにしていた一人だ。物語は現代に適応した形で再構築され、哲学的なテーマが娯楽性豊かな形で描出されていくサマに舌を巻いた。
主人公の姿はシュールであり、自分は見られたくないけれど覗き見したいという心の奥にある願望は、どこか共感してしまうものだった。箱男の格闘シーンや、素早く移動する姿などの演出に所々クスっとさせられた作品でもある。未見の方には是非とも観ていただきたい。
(文・阿部早苗)
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