スティーブン・キングを憤慨させた映画版の大胆な改変

『シャイニング』(1980年)

映画『シャイニング』
映画『シャイニング』【Getty Images】

監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンソン(英語版)
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、スキャットマン・クローザース、ダニー・ロイド

【作品内容】

 小説家志望のジャック(ジャック・ニコルソン)は、冬季閉鎖される山奥のホテルの管理人となり、妻ウェンディ(シェリー・デュヴァル)と心霊能力を持つ息子ダニー(ダニー・ロイド)と共に滞在する。

 かつて管理人が家族を惨殺した過去を持つそのホテルで、次第にジャックも邪悪な力に支配され、狂気に陥っていく。

【注目ポイント】

 ホラー小説の巨匠スティーブン・キング原作の映画『シャイニング』も、原作とはラストを含め大きく異なる作品のひとつだ。物語の構成や登場人物の描写に至るまで、映画と小説の間には明確な違いが存在する。

 映画版では、家族がホテルに到着するまでの過程が簡略化され、双子の少女やラストの巨大迷路など、視覚的に印象的な恐怖演出が加えられている。また全体を通じて、不気味さや象徴性が前面に押し出されており、観る者に強烈な“空気の恐怖”を印象づける。

 一方の原作小説では、ホテルの歴史や登場人物それぞれの背景がより丁寧に描かれており、ジャックの内面の葛藤や、家族間の関係性も深く掘り下げられている。恐怖の表現も、ホテルにある生け垣の動物が動き出すなど、超自然的でありながら心理的な恐怖に重点が置かれている。また、息子ダニーの持つ超感覚「シャイニング」は、原作においてより物語の中心に据えられており、彼の能力が物語の展開を大きく左右している。

 結末も大きく異なるポイントのひとつだ。映画では、父ジャックが迷路の中で凍死し、ホテルそのものは無傷で残される。そして最後に1921年の写真の中に彼の姿が写っているという、不気味で象徴的なイメージを残して物語は幕を閉じる。

 一方で原作では、ジャックがボイラーを爆発させてホテルを破壊し、最終的に家族を守る形で命を落とす。そこには、狂気に飲み込まれながらも最後に父としての愛を貫いた男の姿が描かれている。

 こうした違いにより、映画版『シャイニング』は、象徴表現を駆使した不条理なサイコホラーとして記憶されるのに対し、原作は家族の崩壊と愛のかたち、そして人間の心の闇を深く描いたヒューマンドラマとしての側面が際立つ。

 なお、原作者のスティーブン・キングは、この映画版の改変に強い不満を抱いており、自ら脚本を手がけたテレビドラマ版を後に製作したという逸話もある。それほどまでに、キングにとっては物語のテーマとキャラクターの描き方が重要だったことがうかがえる。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!