作品は「自分の子ども」
新之助は村で物書きも教えており、蔦重は彼の話をもとに“往来物”(子どもが読み書きを学ぶ手習い帳)を作ろうとひらめくのである。ただ作るのではなく、いろんな人の意見を取り入れようと、蔦重の取材が始まる。
地方の豪商と顔つなぎをしてくれる忘八たちの人脈と行動力と蔦重を見守る笑顔は、もはや、人としての八つの徳目を失った「忘八」などと呼べない。頼りになるやさしき上司である。
自分の意見がガッツリ取り入れられた往来物を見て、豪商たちが「俺が作った本、買ってね!」と自慢げに人にすすめるシーンは、なんだか胸が熱くなってしまった。
誰だって自分の意見が聞き入れられれば嬉しい。彫師の四五六(肥後克広)も、自分が彫った版木を、赤子を抱えるように抱き、愛しそうに撫でていた。「あ、笑った」というセリフは多分肥後さんのアドリブだろうが、四五六もきっと同じ思いだったに違いない。
作品は「自分の子ども」だ。