純度の高いプロット主導型作品

『十二人の怒れる男』(1957)

映画『十二人の怒れる男』のワンシーン【Getty Images】
映画『十二人の怒れる男』のワンシーン【Getty Images】

監督:シドニー・ルメット
脚本:レジナルド・ローズ
出演者:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、エド・ベグリー、E・G・マーシャル、ジャック・ウォーデン

【作品内容】

スラム街に住む17歳の少年が親を刺し殺した事件の評決を取るため、無作為に選ばれた12人の陪審員たちが集まってくる。その日は夏の暑い日で、陪審員室に集まる男たちからは、早く終わらせて家に帰りたいという雰囲気が漂っていた。

被告がスラム街出身であることと、裁判の内容を踏まえても有罪、すなわち死刑は決定的なはずだった。しかし評決は11対1。陪審員制のルールでは全員の意見が一致しないと判決を出すことができない決まりである。少年の無罪を主張するのは8番の陪審員だった…。

【注目ポイント】

 物語がほぼ陪審員室の中だけで進行する、ワンシチュエーションものの中でも、究極と呼べる一本だ。古典主義演劇の作劇法である「三一致の法則」をほぼ忠実に踏まえており、リアルタイム進行ならではの緊迫感がある。フルネームすら出てこない12人の陪審員たちのキャラクターの描き分けも見事だ。

 映画の脚本に限らず物語には「プロット主導型」と「人物主導型」があるが、すべての作品はこのうちのどちらか、あるいはその両方の要素を持つものに分類される。本作は、人物主導型の要素も多少は含むが、かなり純度の高いプロット主導型である。

 プロット主導型の高純度なサスペンスとしてTVシリーズ『ロー&オーダー』(1990-2010)も挙げておきたい。『ロー&オーダー』は刑事と検事が登場するが、彼らのパーソナルな部分は殆ど描かれず家族構成すらわからない。事件そのものが主役であり、プロット主導型を突き詰めた例と言える。シリーズを手掛けたディック・ウルフは他にも数多くのサスペンス作品を成功させている。

 近年のサスペンス作品では『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)も好例である。同作はアガサ・クリスティー風のサスペンスで、サスペンスでありながら軽妙でコメディ的な楽しさもある。プロット主導型と人物主導型の要素をバランスよく取り入れた中庸的な好例だ。

 ライアン・ジョンソンは同作と続編の『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』(2022)で2作続けてアカデミー賞候補になった。ひたすらシリアスな『十二人の怒れる男』も良いが、『ナイブズ・アウト』のような娯楽に振り切った作品も楽しくていい。

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