シブがき隊のメンバーから“世界のモックン”へ
品のある佇まいと唯一無二の存在感
本木雅弘
【注目ポイント】
本木雅弘はシブがき隊のメンバー“モックン”の相性で親しまれてきた。解散後はアイドルのイメージからガラリと印象を変える坊主頭で、周防正行監督作品『ファンシイダンス』(1989)に出演。オフビートな芝居でお坊さん修行に励む青年を好演し、俳優としてのキャリアを本格的にスタートさせた。
その後、大河ドラマ『徳川慶喜』で主演を務め、映画『シコふんじゃった。』(1992)では、第17回報知映画賞で主演男優賞、第35回ブルーリボン賞で主演男優賞、第16回日本アカデミー賞でも最優秀主演男優賞を受賞し、日本を代表する名優として確固たる地位を確立した。
本木の芝居の特徴は演技のキレにある。感情がガラッと変わる時の静から動への動きは、他の誰にも真似できないだろう。
そんな本木は実はネガティブ思考で、西川美和監督作品『永い言い訳』(2016)では、自身のキャパシティーを超えるオーダーに対して、キッパリと「できない」と伝えていたそうだ。裏を返すと、監督の演出をすべて自身の内面に落とし込む、本木のプロフェッショナリズムが垣間見えるエピソードだ。
『永い言い訳』で、突然妻を失った人気作家の男を好演した本木は、見事、第71回毎日映画コンクールで男優主演賞を受賞した。
映像で観る本木は凛とした佇まいで芯のある印象を与える。しかし、かつて紅白歌合戦で過激なパフォーマンスを行うなど、エキセントリックな一面を持つのも確かだ。イメージと実像のギャップもまた、彼の芝居に味わい深さを与えている要因の一つかもしれない。
本木雅弘の演技を堪能するためのお勧めの一本
『おくりびと』(2008)
監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
キャスト:本木雅弘、広末涼子、山﨑努、峰岸徹、余貴美子、吉行和子、笹野高史
本作は、小説家・青木新門の『納棺夫日記』を読んで感銘を受けた本木が、自ら作者の元を訪れ、映画化の許可どりに奔走。しかし、脚本と原作の相違から、青木は『納棺夫日記』としてではなく全く別の作品として製作してほしいと要請し、企画から15年の歳月を経て、映画『おくりびと』として製作された。
高給の求人につられて、遺体を棺に納める“納棺師”という職業に就くことになった、元チェリストの大悟(本木雅弘)。戸惑いながらも納棺師の見習いとして働き出すが、妻の美香には冠婚葬祭の仕事とごまかしていた…。このような物語が、滝田洋二郎監督による悠々とした演出で描かれる。
チェリストから納棺師へ。まったく異なる職業に転身した大悟だが、徐々に仕事に慣れていき、身につけた所作がなんとも美しい。力強い視線はずーっと遠くの方を見ているようであり、手の動きには真心がこもっている。その動作は、どこかチェロを弾くときの優雅さに通じる。
ちなみに、本木はもともとチェロが弾けた訳ではなく、撮影に臨む前に猛特訓して身につけたという。
他にも本木が、カメラから見切れる瞬間の表情にも注目してみると面白い。妻である広末涼子から仕事の話を避けるために逃げていくシーンでは、カットが切り替わる瞬間に顔にグッと力が入るようなコミカルな表情になる。これがいやらしく見えないのが不思議だ。
「人は誰でもいつか、おくりびと、おくられびと」であることは変えられない。この映画は、大切な人や自分の死に向き合うきっかけをくれる大切な一本になるだろう。