「ホラーというものが何かをわかっていない!」
原作者激怒と裏腹に評価された作品
『シャイニング』(1980)
原題:The Shining
製作国:アメリカ
原作:スティーブン・キング
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンソン
キャスト:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル、スキャットマン・クローザース、ジョー・ターケル、ダニー・ロイド、バリー・ネルソン
【作品内容】
冬の間は豪雪で閉鎖されるホテルの管理人職を得た小説家志望のジャック・トランスは、妻のウェンディーと心霊能力のある息子ダニーとともにホテルへやってくる。そのホテルでは、かつて精神に異常をきたした管理人が家族を惨殺するという事件が起きており、当初は何も気にしていなかったジャックも、次第に邪悪な意思に飲みこまれていく
小説家のジャックは、妻と霊感のある息子ダニーと冬の間、深い雪に埋もれるホテルに住み込みの管理人としてやってきた。しかしそのホテルでは、精神に異常をきたした管理人が家族を皆殺しにするという事件が起こっていた。
当初は快適に過ごしていた一家だったが、閉鎖された空間で、ジャックはおかしくなっていく…。
【注目ポイント】
本作は、アメリカを代表する作家で「ホラーの帝王」の異名を持つスティーブン・キングの1977年に刊行された原作を基に、監督・脚本を、完璧主義者で知られる“鬼才”スタンリー・キューブリックが担当したホラー作品。
主人公のジャック・トランスを演じたジャック・ニコルソンの狂気に満ちた表情が有名であり、そのシーンの撮影だけで、実に132テイク、2週間以上行われ、テイク数でギネスブックにも記録されている。
冬期間、ホテルの管理人を任された家族3人がさまざまな怪奇現象に遭遇したことで精神が蝕まれ、小説家志望の男トランスが家族を惨殺しようとする恐怖を描いている。
キューブリックは、本作のようなサスペンス作品にとどまらず、『2001年宇宙の旅』(1968)、『時計じかけのオレンジ』(1971)、『フルメタル・ジャケット』(1987)など、さまざまなジャンルの作品を手掛けている。
商業主義がはびこるハリウッドの中で、ジャンルを問わず芸術性の高い作品を世に放ち、その独特な撮影手法や演出は、後に続く若い映画監督に影響を与えている。
社会的なテーマを数多く手掛けてきたキューブリックが、娯楽小説を映画化することには理由があった。前作『バリー・リンドン』(1975)が興行的には不発に終わり、それを挽回するために“売れる映画”を作る必要に迫られていたのだ。
当時、彼に仕えていた秘書によれば、キューブリックは次回作のネタ探しのため、小説を読みまくり、少しでも気に入らないと壁に本を投げつけるという癖があったが、『シャイニング』を読み終わった時は本を投げつけなかったため、「次回作はこの小説か」と直感的に理解したという。
だが、製作された映画版は原作を大きく改変した独自のストーリー展開となっており、スティーブン・キングはキューブリックに対して批判を繰り返している。
「この映画は、大きくて美しいが、モーターのないキャデラックのようなもの。座ることができるし、革張りの匂いを楽しむこともできるけど、そもそも走ることができない。問題なのは、ホラーというジャンル特性をはっきりと理解していないまま、ホラー映画を作ろうとしていたことにある」。かなり辛辣なコメントだ。
原作では、ホテルの“邪悪な何か”がジャックを狂気に陥れる要因としてはっきりと描かれている。しかし、映画ではその理由がよく分からない。
さらに、ジャックの息子ダニー(ダニー・ロイド)の超能力が発揮されることもあまりなく、コックのハロラン(スキャットマン・クローザース)に至ってはホテルに戻ってきた早々、ジャックに殺されてしまい、活躍する機会が全く与えられない。
原作において、多くの重要なシーンが抜け落ちていた。スティーブン・キングが怒るのは当然のことで、「思い違いだらけで腹立たしい」と吐き捨てるのもうなずける話だ。そして、その批判はキューブリックの死後も続いた。
当時は、原作との乖離も相まって、賛否両論の中、公開された本作だが、現在では、ホラー映画の中で最も偉大で影響力のある作品の一つとされ、2018年、「文化的、歴史的、美学的に重要」として認められ、米国議会図書館のアメリカ国立フィルム登録簿に保存された。
そして、39年後の2019年、キューブリック版の『シャイニング』の要素を多く取り入れた続編『ドクター・スリープ』が公開された。
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