激しい差別や偏見に負けず
自身のプレーを貫く姿に胸がふるえる
『42〜世界を変えた男〜』(2013)
原題:42
監督:ブライアン・ヘルゲランド
脚本:ブライアン・ヘルゲランド
キャスト:チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード、レイチェル・ロビンソン
【作品内容】
時は1947年。ブルックリン・ドジャース(ロサンゼルス・ドジャースの前身)のゼネラルマネージャーを務めるリッキー(ハリソン・フォード)は、黒人のみの野球リーグ「ニグロリーグ」のスター選手、ジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)の才能に惚れこみ、彼をチームに迎え入れる。しかし、当時は黒人差別が根強く、ロビンソンはチームメイトや自球団のファンからも差別を受け、心をすり減らしていく。しかし、差別にもめげず、全身全霊で野球に打ち込みつづけるうちに、偏見にまみれていた周囲の目は次第に変化の兆しを見せはじめる。
主役のジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマンは、本作をきっかけに知名度を上げ、2018年にはマーベル映画『ブラック・パンサー』で主演を務めるなど、ハリウッドで不動の地位を築いた。監督のブライアン・ヘルゲランドは、『L.A.コンフィデンシャル』や『ミスティック・リバー』のシナリオを担当した、名脚本家。本作では熟練の演出でドラマを静かに盛り上げる。
当時のアメリカで公然と行われていたリアルな差別描写に胸が搔きむしられる。しかし、見進めるにつれ、言葉ではなくプレイで周囲の目を変えていくジャッキーの姿に、思わず胸がアツくなるだろう。時にジャッキーと激しく衝突しながらも、その才能を信じる初老のゼネラルマネージャーを演じたハリソン・フォードの芝居も見応え抜群だ。
モデルとなったのは、黒人初のメジャーリーガー
ジャッキー・ロビンソン
『42〜世界を変えた男〜』の主人公・ジャッキー・ロビンソン(1919~1972)は、設立以来、有色人種排除の方針が確立されていたMLBにおいて、有色人種として初めてのメジャーリーガーとなった男である。1949年には、打率.342、37盗塁を記録し、首位打者と盗塁王を獲得。1949年から6年連続で3割を超える打率を残すなど、長きにわたって一流選手として活躍した。
そんな稀有な才能を持つジャッキーだが、元々は有色人種の選手のみで構成され、1920年から1948年まで存続した「ニグロリーグ」出身。現在からすると、白人選手と有色人種の選手が同じグラウンドに立ってはいけないという価値観は受け入れがたく思えるだろう。
しかし、1964年に公民権法が施行され、アメリカ国内における人種差別が法的に禁止されるまでは、白人と黒人が試合を共にすることは、スキャンダラスな出来事だったのだ。
『42〜世界を変えた男〜』を観る者は、当時の“常識”を打ち破った、ジャッキー・ロビンソンの活躍に胸を打たれると同時に、アメリカにおける黒人差別の歴史に思いをめぐらせることになるだろう。