前作『X エックス』で正直ナメていた『Pearl パール』
前作『X エックス』は70年代ホラー映画、とくに『悪魔のいけにえ』(1972)を中心とした低予算スラッシャー映画へのオマージュを全面に押し出した作品であった。
前作を観た当時はそうしたオマージュへの注力にいくぶん偏重していたため、ホラー映画だからこそ可能な、自由な表現による批評性やメッセージ性がスポイルされてしまっていると感じていた。しかし、本作『Pearl パール』でその感想を改めなければならなくなった。
前作から続くブレないオマージュ魂、そしてパールという稀代のシリアルキラー誕生の瞬間に立ち合うことによって、本シリーズ(三部作になるという)に批評性やメッセージ性など求めることのなんと小さいことかと反省した次第である。
まずは映画のアバンタイトルを見た瞬間に、なるほどタイ・ウエスト監督はこのシリーズに明確なビジョンを持っていると感動した。
納屋で家畜を相手に歌い出すパールのオープニングはそのまま『オズの魔法使い』(1939)を彷彿とさせ、また本作のその色調は1930年代に映画がカラー化した際に使用されたビビッドな色彩が印象的なテクニカラー調。
さらにオープニングクレジットは1930年代から40年代にかけてジュディ・ガーランドが出演していたようなファミリー映画をリファレンスした陽気なルックであり(その間に流れるのはパールがピッチフォークで殺したガチョウをワニのセダに喰わせるシーンなのだが)、もうのっけから「そうきたか」と関心しきりであった。
そもそも本作は当初、ドイツ表現主義にオマージュを捧げるつもりで白黒で撮影する予定だったというから、タイ・ウエスト監督のオマージュ魂は本物である。