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殺人鬼には意匠となる殺人道具が欠かせない

グラント・ウッド作「アメリカン・ゴシック」(1930)
グラントウッド作アメリカンゴシック1930Getty Images

映画におけるシリアルキラーのキャラクターには、特徴的な殺人道具がかかせない。『悪魔のいけにえ』(1974)のレザー・フェイスといえばチェーンソー、『ハロウィン』(1978)のマイケル・マイヤーズといえば肉きり包丁、『ノーカントリー』(2007)のアントン・シガーと言えば屠畜用の空気銃といった具合に、映画に登場する稀代の殺人鬼にはお気に入りの殺人道具がある。

そしてパールの殺人道具は農家の娘だけに、農具のピッチフォークである。前作で老いてなおパールはこの農具を好んで使用していたので、かなりのお気に入りらしい。

このピッチフォークは本来はヨーロッパ起源の農具であるが、アメリカでは農具だけでなく別の意味を持つ。それは「アメリカン・ゴシック」という絵画のなかにある。初老の男女の肖像画だが、その絵の男性が手にしているのが何を隠そうパールのフェイバリットなマーダーツールであるピッチフォークなのだ。

この「アメリカン・ゴシック」は20世紀アメリカ美術を代表する絵画であり、様々なパロディとして扱われるほどアメリカ人にとってアイコンとなっている絵画である。

そしてこの絵を描いたグラント・ウッド(1891-1942)は伝統や保守的の意味合いをもつ地域主義を指す“リージョナリズム”を代表する画家の一人なのだ。そうした絵画に登場するピッチフォークは、パールをかの土地に縛る象徴なのである。多様なレファレンスを映画に散りばめているタイ・ウエスト監督のことだから、たぶんそうした文化的引用も考えていたのかもしれない。

そのほかにも映画の時代背景が第一次世界大戦ということでスペイン風邪の流行による感染症への警戒などが描かれており(物語にはそれほど関係ないが)、コロナ禍というアクチュアルな事象に目配せしている点も抜かりない。

『Pearl パール』は、時系列としては前作『X エックス』の前日譚であるものの、この作品から見始めても十分眩暈がするほどグロテスクである。

どちらかというと、本作を見てからのほうが前作の意味が深く汲み取れるようになっているくらいだ。ぜひ公開中の映画と合わせて前作も見てほしい。

現時点で、今年もっともグロテスクでインパクトのある映画であった。

(文・すずきたけし)

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