ホーム » 投稿 » コラム » 日本映画 » 名匠・岩井俊二監督の最高傑作は? 世界に誇る日本映画5選。唯一無二の映像美、リアルで残酷な物語に魅せられる » Page 3

混沌とした唯一無二の世界観
日本映画の新しい時代の到来を告げた一本

『スワロウテイル』(1996)


出典:Amazon

監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演:CHARA、伊藤歩、江口洋介、三上博史、渡部篤郎

【作品内容】

昔、世界で“円”が一番強かった頃、日本に出稼ぎにやってきた移民たちは、その街を“円都(イェンタウン)”と呼んでいた。しかしこの呼び名を嫌った日本人たちは移民たちを“円盗(イェンタウン)”と呼び、軽蔑していた。

円盗の娼婦・グリコ(Chara)は、仲間と共に偽札を作り、ライブハウスを廃業すると歌手として成功を収める…。

【注目ポイント】

俳優の江口洋介
俳優の江口洋介Getty Images

幻想的で夢の中にいるような映像が特徴の岩井俊二作品だが、本作は他の作品と違った、混沌とした風景が特徴の異色作。

世界で“円”が一番強かった頃、大金を求める移民たちが成功を目指してやってくる。実際、1970年代から80年代後半にかけて、日本はバブル経済真っ只中。日本経済は活力にあふれ、アメリカを猛然と追い上げている時期だったわけだが、その後、バブルは崩壊し、本作が公開された1996年には停滞の一途をたどっていた。

その点、本作の物語は「バブルが崩壊せずに日本経済の勢いが上昇し続けていたら、こんな世界になっていたのかもしれない」という歴史の“if”を描いた作品と見なすこともできるだろう。ちなみに、“if”というテーマは岩井俊二の実質的なデビュー作『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』でも描かれている、岩井作品の核心的なテーマの一つだ。

日本語や中国語が入り混じるセリフと、街のごちゃごちゃした雰囲気は世紀末のようであるが、なぜか岩井俊二の特徴である柔らかい雰囲気も感じられることがなんとも不思議だ。

配役にも注目したい。本業は歌手であるCharaを起用するという大胆なキャスティング。ちなみに、Charaは、岩井俊二が1996年に発表した中編『PiCNiC』にも出演している。

アゲハ役の伊藤歩は当時15歳。インタビューによると「演出という演出を受けていない」というから驚く。伊藤はその後、『リリイ・シュシュのすべて』でもメインキャストで出演するなど、岩井作品を彩る中心的なキャストの一人となる。

話は色々な要素が混ざり合い難しくも感じるが、随所に散りばめられたこだわりの選曲にぐっと気持ちを持っていかれる。名手・篠田昇による縦横無尽のカメラワークもこの映画の特徴であり、夢と現実を行き来するかのような岩井ワールドに入り込むことができる。

amazonprime

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!