ピクサーの妥協を許さないクリエイティブ
さて、そんなピクサー作品の特徴といえば、まず挙げられるのは、ストーリーテリングの巧みさだろう。
クリエイター主体の経営体制を採用している同社では、ジョン・ラセターの提唱する「Story is King(ストーリーこそ王様だ)」という哲学に基づき、妥協を許さない脚本づくりが行われている。
例えば、車たちの世界を舞台とした『カーズ』(2006年)では、社内で「Motorama」というイベントを開催。
車好きのスタッフがさまざまな車を持ち寄り、チームメンバーが自動車を徹底的に観察することで、車好きでも満足できる作品にまでクオリティを高めている(ピクサーの脚本作りに関しては、絵コンテ作家のエマ・コーツが「22の法則」としてまとめているので参考にしてもらいたい)。
また、3DCGならではのシンプルな映像と細部へのこだわりもピクサー作品の大きな特徴だ。
ピクサー作品では、「Simplexity」という哲学に基づき、観客が分かりやすく楽しめるよう、キャラクターのデザインや感情表現を極力シンプルなものにまとめられている。
例えば、人間の頭の中を舞台とした『インサイド・ヘッド』(2015年)では、「喜び」「悲しみ」「怒り」「嫌悪」「恐れ」の5つの感情が全て長方形や正方形といった形で表現されている。
また、一方画面の中では、小道具が極限まで作り込まれ、テクスチャの質感や光の表現といったディテールもリアルに表現されている。
ここには、ピクサー社の創設者の一人であるスティーブ・ジョブズのデザイン哲学が反映されているといえるだろう。
さて、ピクサーに影響を与えた人物は、スティーブ・ジョブズだけではない。現にラセターは、影響を受けたクリエイターに、ウォルト・ディズニー、フランク・キャプラ、バスター・キートン、チャック・ジョーンズとならび、宮崎駿を挙げている。次ページからは、2人の関係に迫っていこう。