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魂がフィルムに焼きつく…。

苦労人のフォークシンガーが魅せるスゴい芝居

竹原ピストル『永い言い訳』(2016)


出典:Amazon

原作:西川美和
監督:西川美和
脚本:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、堀内敬子、深津絵里

【作品情報】

人気作家・津村啓こと衣笠幸夫は(本木雅弘)は、自身が愛人と過ごしている最中、スキー旅行に出かけた妻・夏子(深津絵里)がバスの事故で亡くなったと知らせを受ける。だが、妻との関係は冷え切っており、悲しむフリをしてやり過ごしていた。

そんな中、同じ事故で亡くなった妻の親友の夫で、2人の幼い子を持つトラック運転手の大宮陽一(竹原ピストル)と出会う。陽一の憔悴しきった様子を見た幸夫は、咄嗟に2人の子どもの面倒を見ることを申し出る…。

【注目ポイント】

竹原ピストル【本人の公式X(旧Twitter)より】
竹原ピストル本人の公式X旧Twitterより

魂をこめた熱い曲が人気のシンガー・竹原ピストル。彼の芝居は、歌唱パフォーマンスに負けず劣らず、熱く、心に響く。

本作で共演した名優・本木雅弘も、「竹原が魂そのもののような存在」とコメント。西川監督も「竹原自身の生き方がフィルムに焼き付く」と絶賛した。

竹原は、フォークバンド・野狐禅のMVを撮った熊切和嘉監督に俳優としての素質を見出され、映画『青春☆金属バット』で俳優としての活動を開始する。

その後、松本人志監督の映画『さや侍』に出演。松本人志から「僕が何もしなくても彼は日の目を見ると思いますけど、才能がある人が認められていないと…」と才能を認められ、世間的評価の低さを嘆かれた。

ごく一部からは俳優としての素質を絶賛されていた竹原だったが、世間の評価が追いついたのは、『さや侍』から5年後に発表された『永い言い訳』においてだろう。本作で竹原は、第90回キネマ旬報ベスト・テンで助演男優賞を受賞、第40回日本アカデミー賞で優秀助演男優賞を受賞した。

彼の芝居は、なぜこんなにも人の心を打つのか。

本作で竹原が演じる陽一は、主人公・幸夫とは反対に妻を愛しており、妻との突然の別れに悲しみをあらわにする。その感情や佇まい、振る舞いにまったく嘘がない。つまるところ、彼の演技はひたすら人間臭い。観る者は、竹原の性格や生き方がそのまま芝居に出ている、といった印象を受けるに違いない。

竹原本人は「本作で自分が魅力的に映ったのは、身の丈に合った、世の中に確実にある喜怒哀楽が描かれているから」と言う。

確かに彼の言う通り、本作は感情表現が等身大で、大きすぎもせず、小さすぎもしない。悲しいときに泣き、嬉しい時に笑う。人間本来の感情が無理なく描かれている。西川美和がつむぐ繊細な物語を体現するには、卓抜な演技力が必要とされるのは言うまでもない。しかし、竹原は上手さをひけらかすことなく、余計な計算が見えない真っすぐな芝居で、難役を見事にものにしてみせた。

俳優でもたまに「こう見せよう」「ここで泣こう」という感情が透けて見えてしまう人がいるが、竹原からはそうした余計なものが感じられない。

これは俳優として、最も忘れてはならないことではないだろうか。嘘がない感情の放出は、人の胸を打つ。竹原は、俳優としても素晴らしい素質を持ったミュージシャンの一人である。

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