極悪人を演じ、数々の賞を総ナメ…。場を支配する圧倒的な存在感に注目
ピエール瀧『凶悪』(2013)
原作:新潮45編集部編
監督:白石和彌
脚本:高橋泉、白石和彌
出演:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴
【作品情報】
ある日、スクープ誌に死刑囚・須藤(ピエール瀧)からの手紙が届く。
記者の藤井(山田孝之)が須藤に面会しに行くと、須藤は死刑判決を受けた事件の他に、3つの犯罪を犯しており、その全てに「先生」(リリー・フランキー)と呼ばれる男が関与していると告白される。
須藤は「先生」が罪から逃れていることが許せず、真実を白日の下に晒すため、藤井に記事にしてほしいと頼み込む。
1999年に実際に起きた殺人事件「上申書殺人事件」を基にした、ノンフィクション小説『凶悪 -ある死刑囚の告発-』が原作。
【注目ポイント】
本格的なテクノサウンドで人気を博する異色の音楽ユニット・電気グルーヴのメンバーであるピエール瀧。2019年には麻薬取締法違反で逮捕され、世間に衝撃を与えたものの、ミュージシャンにとどまらず俳優、声優、ナレーターと、マルチに活躍している。
俳優としては、その大きな体格や悪そうな顔を最大限に活かした芝居が特徴。本作では元ヤクザの凶悪犯罪者・須藤を演じた。
死体をバラバラにする姿があまりにも似合う…というと語弊があるかもしれないが、悪いことをしても感情が揺らがず、まるで料理をするだけというように、一切動じることなく残虐な所業を粛々とこなすサマは鳥肌モノ。その演技からはまったく人間の心を感じることができない。
死体を処理したり、人を殺そうとしたりした時に言う「よし、ぶっこんじゃおう」というセリフは、観終わった後、ずっと耳にこびりついて離れないほどのインパクトを放っている。
そうした悪を悪とも思わない思考回路と、皮を一枚めくると一気に噴き出してきそうな怒りの感情を隠し持つ恐ろしいキャラクターを怪演し、結果的に本作での芝居が評価され、第37回日本アカデミー賞・優秀助演男優賞や、第56回ブルーリボン賞助演男優賞など、数々の賞を獲得した。
その後も俳優としての快進撃をみせ、2017年にはオールスターキャストで知られる北野武監督作品『アウトレイジ 最終章』に出演。北野が『凶悪』における瀧の演技を見てオファーを決めたかどうかは定かではないが、日本映画史に残る怪演であることは衆目が認めるところだろう。