恋愛下手な天才ギタリストを自然体で演じる
ベストセラーを基にした大人の恋愛映画
『マチネの終わりに』(2019)
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎
脚本:井上由美子
キャスト:福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、桜井ユキ
【作品内容】
世界的なクラシックギタリストの蒔野聡史(福山雅治)は、公演のために訪れたパリで、ジャーナリストの小峰洋子と出会う。2人は一目で惹かれ合い、交流を深めていく。しかし、洋子には経済学者の新藤(伊勢谷友介)という婚約者がいる。聡史は洋子が婚約中の身であることを知りながら、告白。40代を超えた2人の「人生最後の恋」は果たしてどのような結末を迎えるのか…?
原作は芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラー小説。メガホンをとったのは『容疑者Xの献身』、『真夏の方程式』で福山とタッグを組んだ、名匠・西谷弘。大規模な海外ロケを敢行した、スケールの大きい恋愛映画の傑作である。
【注目ポイント】
パリとニューヨークの美しい街並みも楽しめる、大人の恋愛映画。世界的なクラシックギタリストを演じる福山は、クランクインの3カ月前から特訓に励み、素晴らしい演奏を披露。芸術家としての憂いを帯びた表情と、演奏シーンにおける情熱的な表情のギャップに思わずハッとする。
理想の演奏を追い求めるあまり、孤独におちいっていくアーティストの心のドアを繊細に押し開けていくのが、石田ゆり子演じるフランス在住のジャーナリスト・洋子である。冷静さと情熱を兼ねそなえた福山のキャラクターは、そのまま2人の恋愛模様にもあてはまる。
大人になるまで音楽しか愛してこなかった男が、生まれて初めて女性を愛する。それに伴う戸惑いや迷いがしっかり描かれている。洋子から別れを告げられ、台所で一人泣き叫びながらグラスを握りつぶし、手を怪我するシーンは、ギタリストとしてあるまじき行為であり、ついついツッコミを入れたくなるが、蒔野のバックボーンを踏まえると納得できる。彼は恋愛下手な男なのだ。福山はクールな見た目とは裏腹に不器用な男を自然体で演じており、役者としての成熟を見せつけている。