女優としても圧倒的な存在感を放つ
浜崎あゆみ『渚のシンドバッド』(1995)
監督:橋口亮輔
脚本:橋口亮輔
出演者:岡田義徳、草野康太、浜崎あゆみ、高田久実、山口耕史、勇静華、村井國夫、根岸季衣、山口美也子、石川千晴、趙方豪、袴田吉彦、橋口亮輔
【作品内容】
高校2年生の伊藤修司(岡田義徳)は、同級生で同じ吹奏楽部の吉田浩之に恋をしていた。3ヶ月前に転向してきた果沙音(浜崎あゆみ)は、周囲に媚びない性格だったが、修司が浩之に想いを寄せていることを見抜き、接近してくる。
修司は父親にホモであることがばれ、精神科に通院していた。
修司は果沙音を遠ざけようとしていたが、ある日、果沙音と精神科でばったり遭遇する。果沙音はレイプされたことがあり、そのトラウマから立ち直るために病院に親に通わされていた。
修司は友達にクラスでゲイであるという噂を流され、浩之に告白する。
【注目ポイント】
平成のアイコンとも呼べるカリスマ的な人気を博す歌姫・浜崎あゆみ。歌で人々を魅了する前から彼女は役者としても天才的な才能を発揮していた。
浜崎演じる相原は、転校先の学校で周囲に馴染もうとしないが、ゲイ疑惑のある伊藤に近づき、からかうような態度をとる。そうした自分勝手な言動から周囲から疎まれる存在だったが、実はレイプされたことから転校するに至ったという、複雑な過去を持つ。
しかし人の気持ちを考えないような物言いの相原が、冒頭、保健室で寝ている伊藤を見つめる眼差しに濁りがなく、とても優しそうにも見えるし、悲しそうにも見える。
人に接する表面だけでなく、心の内側から溢れる複雑な心境を表現するような芝居であり、後のいじわるな態度と落差が生まれている。
橋口監督の演出の賜物でもあるが、浜崎の持つ本来の人間性がナチュラルかつ小悪魔的に発揮されており、現在でもこうした演技ができる役者はとても少ないのではないかと思う。
少なくともこうした芝居ができるのは、人を惹きつける天性の輝きもあるだろう。淡々と、でも周りを引っ掻き回す不思議な存在感を放ち、目が離せない。
同級生で正義感溢れる吉田に恋をする伊藤を中心に、それぞれの思惑が絡み合い、化学反応を起こす本作。
浜崎以外の役者も全員、10代から20代前半の中、学園ものでこんなに混じりけがなく、ただただ青春の苦みを味わえる映画はそう多くはないだろう。
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