「間」を活用した宮崎駿マジック
「英The film magazine」
宮崎監督の映画には脚本などほぼない。ストーリー内容は、ほぼ全て絵コンテのプロセスで描かれていく。その工程で仕上がるアニメは、毛穴の無い人間の心臓へと轟く生の感情を孕み、子供から大人まで一変に別世界へと連れさらう。
作品の強烈なリアリズムと没入感は、宮崎監督の全ての作品にも見受けられる静寂の瞬間の「間」という概念を用いていることにも起因する。映画評論家であるロジャー・エバートとのインタビューでは「一瞬の隙間さえあれば、映画の中で高まる緊張感はより広い次元へと成長することができる。常に80度のテンションを保っているだけでは、ただ麻痺してしまうだけだ」と宮崎駿は語っていた。
私たちは皆、この場所で見知らぬ者同士。それは主人公である千(せん)も同じ。だからこそ彼女の見ているものを見て、感じているものを感じることができる。千尋がハクから貰ったおにぎりを食べる時、彼女の疲労、恐怖、悲しみが涙として溢れた時、その理由の全てが視聴者に伝わっていく。喉に入っていくおにぎりが、痛々しく感じる。
そんな映画マジックに満ちた瞬間が他にあっただろうか?宮崎駿監督の少女の自立を描いた本作の静かな物語は、今なお多くの人に強く必要とされており、欧米のヒーロー達が続々と登場する巨人アニメにも負けていない。