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天才数学者が仕掛けた完璧なアリバイに刑事が野生の勘で挑む

『容疑者X 天才数学者のアリバイ』(2019)

監督:パン・ウンジン
脚本:キム・テユン ほか
キャスト:リュ・スンボム、イ・ヨウォン、チョ・ジヌン

【作品内容】

数学教師ソッコ(リュ・スンボム)は、驚異的なIQの持ち主であるが、不遇の人生を送っており、ボロアパートで1人孤独に暮らしている。ある日、ソッコの部屋の隣に住む女性・ファソン(イ・ヨウォン)は、DV癖のある前夫のチョルミンともみ合った末に、殺害してしまう。殺人はアクシデントであったが、まさかの事態にファソンは呆然とする。殺人の事実を知ったソッコはファソンを助けるため、完璧なアリバイを作り出す。事件を追う警察の捜査チームは、中々手掛かりが掴めないでいる。担当刑事のミンボム(チョ・ジヌン)は、ソッコの同級生だ。学生時代から天才として知られていたソッコが何らかの形で事件に関わっているのではないかと直観したミンボムは、さらに捜査を進め…。

直木賞受賞作であり、東野圭吾の最高傑作の一つとされる『容疑者Xの献身』を、韓国のスタッフ・キャストが映画化。監督のパン・ウンジンは、役者から演出家へと転身を果たした女性監督である。

【注目ポイント】

『容疑者Xの献身』といえば、福山雅治が天才科学者・湯川学を演じ、堤真一扮する天才数学者・石神哲哉との対決を描いた2008年製作の邦画をイメージする人が大半だろう。本作は、東野圭吾の原作に独自のアレンジを加えた韓国映画版である。

邦画版との決定的な違いは、語りの視点が警察サイドではなく犯人サイドにあり、主人公が数学者のソッコであるという点にある。原作は湯川学を主人公とする「ガリレオ」シリーズに連なる作品ではあるが、韓国版では湯川に類する人物が、科学者ではなく、しごく平凡な警察官に設定されている。

したがって、原作や邦画版の醍醐味であった「天才VS天才」というモチーフは描かれず、「天才VS凡才」の構図をフィーチャーする、まったく別物の作品となっている。頭脳戦では犯人に敵わない刑事が武器とするのは、野生の勘である。

原作や邦画版と同じ展開を期待すると肩透かしをくらうだろう。しかし、孤独な数学者ソッコの鋭い内面描写、思いを寄せるファソンとのナイーブな関係など、心打つシーンが多いのも確かである。原作を忘れて、まっさらな目で観ると、良質なミステリーとして楽しめるかもしれない。

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