トーマシン・マッケンジーの変身っぷりに注目!
『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』(2021)
監督:エドガー・ライト
脚本:エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
キャスト:トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ
【作品内容】
ファッションデザイナー志望のエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、専門学校に入学するため、田舎町から大都会ロンドンへと移り住む。古い宿舎に居を構えたのはいいものの、不思議なことに、毎晩のように1966年のロンドンへとタイプリープするようになる。エロイーズは過去の世界に入ると、歌手志望のサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)に変身し、華やかな夜の世界で羽を伸ばす。しかし、幸福なタイプリープ体験は徐々に陰りを見せはじめ…。
メガホンをとったのは、イギリス出身の映画監督・エドガー・ライト。入念な時代考証に基づき、1960年代のロンドンの雰囲気を見事に再現。鏡を多用したミステリアスな演出、伏線を張り巡らしたシナリオ、タイプの異なる2人の若手女優の豪華共演と、見どころ満載の一本だ。
【注目ポイント】
NETFLIXオリジナルドラマ『クイーンズ・ギャンビット』(2020)で注目を集めた、アニャ・テイラー=ジョイと共演を果たした、一風変わったタイムリープホラーである。1960年代のロンドンに蔓延っていた女性搾取の問題にもフォーカスしていることで、話題を集めた。
映画『オールド』では、心身の急激な成長に戸惑う女性を抑制された芝居で見事に演じたトーマシン・マッケンジー。本作では、夜になると別人に変身するヒロインの戸惑いと、大人の女性への憧れ、退屈な日常から抜け出す解放感など、複数の感情を繊細に表現している。
トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは、タイムリープを繰り返すうちに、精神と人間関係のバランスを崩していく。次第に笑顔は消え、血色の悪い肌を隠すようにメイクを厚く塗りたくる姿は痛ましい。『ロストガールズ』や『ジョジョ・ラビット』でも見せた、影のある芝居がここでも活きている。
「変身する女性」を演じることと、「陰と陽の二面性」。トーマシン・マッケンジーが今までに演じてきた役柄に共通する重要なテーマを凝縮した『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』は、現時点での代表作と言っても過言ではないだろう。