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最も面白い日本の考察系映画は…? 観る人の数だけ答えがある名作邦画5選。心を掴んで離さないミステリアスな作品をセレクト

text by ニャンコ

一口に考察といっても、難解な作品のミステリー的な謎解き要素から、文学的な味わいが後を引く作品まで、楽しみ方は様々だ。今回は、日本映画から特におすすめしたい名作を厳選。昭和中期から現代の新作まで、映画ファンたちに最も考察されている奥深い作品を5本セレクトした。(文・ニャンコ)

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“怪物”は一体誰のこと? カンヌを席巻した近年を代表する邦画の傑作

『怪物』(2023年)

瑛太
瑛太Getty Images

上映時間:126分
監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
キャスト:安藤サクラ、永山瑛太(瑛太)、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子

【作品内容】

大きな湖のある郊外の町に、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たちがいた。

ある日、事件が発生する。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事件に発展していく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消してしまった。

果たして、怪物の正体とは何か?

『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝き、『ベイビー・ブローカー』で2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、エキュメニカル審査員賞も受賞した是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と語る脚本家の坂元裕二と初タッグを組んだ作品である。

出演は、安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら変幻自在な演技で観る者を圧倒する実力派と、二人の少年を黒川想矢と柊木陽太が演じており、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩キャストが集結。

登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに私たちは何を見るのか? その衝撃の結末に心揺さぶられる圧巻のヒューマンドラマである。

【注目ポイント】

本作の考察ポイントは、タイトルにもなっている「怪物」の正体について。本作で描かれる怪物とは、「自分の都合で事実を捻じ曲げたり、理想や常識を押し付けようとする人物」のことである。

そして「誰の視点で物事を見るかにより、誰が怪物かが変わる」というのが本作の見所でもありテーマにもなっている。

例えば早織(安藤サクラ)の視点では、保利(永山瑛太)による息子の湊(黒川想矢)への虐待を認めない伏見(田中裕子)たち教師陣が怪物として描かれている。

一方で保利(永山瑛太)の視点では、真実を語らずに自分を追い詰めた湊や星川(柊木陽太)、学校を守るために真実を伏せた伏見、そしてモンスターペアレントである早織が怪物として描かれているのである。

そして湊の視点では、男らしさを求める星川の父親(中村獅童)や担任の保利、普通の家族を持つことを求める母の早織が怪物として描かれている。

つまり、「人物の視点の数だけ、その人物にとっての怪物が存在している」ということである。

またラストシーンについても、様々な考察が繰り広げられている。SNS上では「湊や星川はどうなってしまったのか?」「2人は死んでしまったのか?」といった解釈が飛び交っている。

このラストシーンは、映画版と小説版で内容が異なっている。というのも、原作である小説版では「2人の生存が確定している」のに対し、映画版では「2人の生存をあやふや」にしているのだ。

また2人が巻き込まれる土砂崩れによる爆音や振動は、「2人の人生の旅立ちを意味している」といった考察もある。その説に則ると、ラスト、2人は生きていて、新たな人生を歩みはじめる、といった解釈になる。

一方、子供が2人で生き抜いていけるほど人生は甘くないのは事実。その点を踏まえると、「2人の前には人生という名の新しい怪物が待ち構えている」といった、いささか詩的な解釈も可能だ。

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