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「正しい人間はいない」という真理。芥川龍之介原作×黒澤明監督の名作

『羅生門』(1950年)

映画『羅生門』のワンシーン
映画羅生門のワンシーンGetty Images

上映時間:88分
監督:黒澤明
原作:芥川龍之介
脚本:黒澤明、橋本忍
キャスト:三船敏郎、京マチ子、志村喬、森雅之、千秋実、本間文子、上田吉二郎、加東大介

【作品内容】

平安時代、都にほど近い山中で貴族女性が山賊に襲われ、供回りの侍が殺された。やがて盗賊は捕われ裁判となるが、山賊と貴族女性の言い分は真っ向から対立する。

検非違使は巫女の口寄せによって侍の霊を呼び出し証言を得ようとする、それもまた二人の言い分とは異なっていた……。

芥川龍之介の短編「藪の中」を映画化し、世界にクロサワの名を知らしめた歴史的作品である。

ヴェネチア国際映画祭で第12回ヴェネチア映画祭金獅子賞、第24回米アカデミー賞で最優秀外国語映画賞を受賞した黒澤明の出世作であり、米アカデミー協会の全面的バックアップを受け、映像とサウンドを修復した「デジタル完全版」が2008年に公開されたことで話題を呼んだ。

4人の人物、盗賊の多襄丸(三船敏郎)、武士(森雅之)、武士の妻(京マチ子)、木こり(志村喬)の視点で事件の詳細が語られるが、真実は一向に見えてこず、まさに「藪の中」の状態になる。

人間の業、自分に都合の良い嘘しかつかない、正しい人間はいない、といった生きる上で重要な教訓を含んだ名作である。

【注目ポイント】

事件の真実を巡り、いったい誰の証言が正しいのか? について考察が繰り広げられている。結論として、誰も真実を語っていないのだが、それでも、公開から70年以上経った現在に至るまで、真実を求めて考察が繰り広げられており、さすがは世界のクロサワである。

見どころの多い本作において、特に注目されているポイントは、死んだはずの武士(森雅之)が巫女により口寄せされ証言をする、という展開である。生きている人間の証言でさえ食い違うというのに、そこに死んだ人間が入り込んでくるのだから、真実はますます「藪の中」に入り込んでしまう。そして死んだ人間でさえも、自分に都合の良い嘘しかつかない、という点も興味深い。人間の利己心と偏見は死んでも変わらないのだ。

真実に一番近い証言をしているのは、木こり(志村喬)であり、終盤までは唯一の正しい人間のように描かれている。しかし、木こりもまた、武士の妻(京マチ子)の短刀を盗んでしまったことを多襄丸(三船敏郎)に見抜かれ、「結局、正しい人間はいない」と考えさせられる。

だがここで終わらないのが世界のクロサワである。

確かに木こり(志村喬)は間違いを犯してしまったかもしれないが、最後は捨てられた赤ん坊を拾い上げ「自分には子供が6人いる。7人に増えるのも同じ苦労だ」と口にし、赤ん坊を抱きながら羅生門を立ち去る。

このラストシーンにより、「正しい人間はいないかもしれないが、正しい行動をする人間もいる」ということを観客に気づかせてくれるのだ。

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