唯一無二の漫才スタイル…。大会史上最高得点をたたき出した名漫才師
ミルクボーイ(M-1グランプリ2019王者)
メンバー:駒場孝(ボケ)内海崇(ツッコミ)
所属:吉本興業
コンビ結成年:2007年
【注目ポイント】
「人の力と言葉の力と、センスが凝縮されてたので、ほぼ100点に近い99点です」
ミルクボーイの「コーンフレーク」のネタ見たナイツ塙は言った。小太りの角刈りとマッチョ。そんな風貌の2人が、自分のオカンが思い出せない朝ごはんが「コーンフレークか、そうでないか」をひたすらに議論している。
声量や滑舌、抑揚のつけ方、あえて笑い待ちをせず観客のウケを持続させるという戦法など、項目にどんな要素が入っても正五角形になるような完璧な漫才を披露し、大会史上最高得点の681点を叩き出した。
翌年、SNSには結婚式の余興や文化祭でミルクボーイのパロディ漫才を一般の方が披露する様子が多数投稿されたのは、行ったり来たり漫才のシステムの強さあってこそだと思う。
【ミルクボーイの漫才を映画にたとえるなら】
『ぼけますから、よろしくお願いします』(2018)
製作国:日本
ジャンル:ドキュメンタリー
上映時間:102分
監督: 信友直子
「オカンが朝ごはんの名前を忘れる」ところから始まるミルクボーイの漫才だが、この映画が映し出すのは「朝ごはんを食べたことを忘れてしまうオカン」だ。広島県呉市の一軒家に住む認知症になったオカンと耳の遠い年上のオトン。『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、そんな老老介護の現実に、娘である監督自らがカメラを向けたドキュメンタリー映画だ。
ミルクボーイの漫才が「行ったり来たり漫才」ならば、この映画は「行ったり来たりドキュメンタリー」と言えるだろう。監督の信友直子はカメラを持ったディレクターであり、オカンの娘でもある。ドキュメンタリーディレクターと認知症の身内を支える娘、この2つの異なる立場を行ったり来たりしながら、被写体兼オカンにカメラを向ける。
監督としては、「(老老介護の現状を伝える上で)欲しい映像」かもしれないが、娘としては「今すぐにでも手を差し伸べたい状態」。監督の「ここは監督目線やろ」「ほな監督目線と違うか」と揺らぐ心が、カメラに見え隠れしているのだ。
このようにシリアスな内容であることは間違いないが、公開時のポレポレ東中野の劇場内には時折笑いが起きていた。
母「もう昼?」父「なんじゃ?」母「お昼ですか?」父「オリーブ?」のくだりや、「どしてかね、どして分からんようになっとるんかね」と娘に悩みを話すオカンの後ろで、オトンの謎の鼻歌「♪ちょっちょりんこ、ちょっちょりんこ〜」が響くシーンなど、家族ならではのふとした会話がどこかおかしく愛おしいのだ。
ミルクボーイの内海と駒場の関係は、信友監督とオトンの関係性に近い。「ほな、コーンフレークやないか」「ほな、コーンフレーク違うか」のように、オカンが伝えたいことを理解しようと話し合う。上手く言葉がでないオカンの真意を汲み取ろうと努力する姿勢にグッとくる。
タイトルとなっている『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、新年の挨拶でオカンが言った言葉だ。認知症を自虐したギャグに、娘やオトンからは笑いがこぼれる。どんな状況だろうと笑いは人を救う。救うといっても気持ちが楽になる程度で、ほんの傘増しにしかならないのかもしれない。そういう意味なら、パフェの下のコーンフレークも悪くない。