独白軽視の風潮を一瞬で忘れさせるほどの面白さ
バカリズムの「独白」が光るコントといえば、一般男性と入れ替わってしまった福山雅治の長い一日の描いた『Change』(バカリズムライブ『SPORTS』2011)、中年男性版魔法少女・峯岸を主人公にした『マジカル☆中年』(バカリズムライブ『運命』2012)、満員電車内でのある悲惨な事件を2つの視点の独白で語る『大ピンチ』と『大チャンス』(『ピンチ!』2010)なども挙げられる。
「独白」は万能だ。登場人物の思考や心情を直接に受け手に伝えられ、ストーリーの要約でき、時間や場所を自在に飛ばすこともできる。制限の多い「一人コント」に持ってこいの手法だ。ただ「独白」は演劇的、マンガ的な手法として、映像作品によっては省略されることも多い。脚本家によっては「心の声は逃げ」や「会話やト書きで間接的に心情を表現したい」という美学を持っている方すらいる。
バカリズムは、ドラマや映画にほとんど触れて来なかった稀有な脚本家だ。ストーリーテリングの基礎はマンガやゲームで培ったものであるとインタビューでも語っている。そのため、衒いなく「独白」が多用されるし、その「独白」に満ちた脚本は、独白軽視の風潮を一瞬で忘れさせるほどの面白さがある。
例えば、銀行に勤めるOL5人の日常を描いた『架空OL日記』(2017)は、バカリズム演じる主人公「私」によるブログ口調の「独白」で、銀行に勤めるOLたちの日常が語られる。また、『ノンレムの窓 2023・夏』の「夕暮れ時の葛藤」では、スーパーのレジを待つサラリーマンの心の声でドラマを展開させ、今年の正月に放送された『侵入者たちの晩餐』(2024)では、ある豪邸への侵入を、様々な侵入者の「独白」によって見せていった。