一人コントで培われたドラマの脚本を書く能力
そんな「独白」の集大成といえるのが、2023年のドラマの賞を総ナメにした『ブラッシュアップライフ』(2023)だろう。本作には、何度も人生をやり直す主人公・近藤麻美(安藤サクラ)のバリエーション豊かな「独白」が登場する。
まずは、ストーリーを進行するナレーション風独白、そして人生を2回以上経験しているからこその気づきや発見を伝える独白、周囲の人物へのツッコミ独白、2周目に前の人生の元カレに会い、当時の日々を思い出しながら呟く「それももう過去ですらない」というエモ独白、さらには、永尾柚乃演じる「子ども麻美」の映像に、安藤サクラ演じる「大人の麻美」の心の声が重なるという「メタ独白ギャグ」まで、とにかく豊かな「独白」で満たされていた。
このように、一人コントで培われた「独白」を書く能力は、ドラマの脚本に生かされている。そして「ドラマ脚本の執筆」もまた、コントに影響を与えている。
初期のバカリズムコントは、ストーリー性よりもアイデアやシステムの立ったコントが多かった。有名な「トツギーノ」や「イニシャル先生」、「都道府県の持ち方」などがそうだろう。しかし、『素敵な選TAXI』(2014)で連ドラ脚本家デビューして以降、ドラマ的なストーリー性の高いコントが増加傾向にある。特に「ラスネタ」と呼ばれる「単独ライブの最後のコント」は、独白ベースのドラマのように展開していくコントが多い。
例えば、バカリズムライブ『image』(2018)のラスネタ「松沼省三の生涯」。このコントは、来世のために徳を積んできた男の最期の物語だ。病床の松沼省三は、イメージしている「最高の来世」をパワーポイントで説明する。
しかし、現世に残っていた些細な幸せに気づき、来世に頼ることなく長生きをすることを選ぶ。松沼省三の姿は、繰り返し人生をブラッシュアップした結局、地元で歳を重ねることを選んだ『ブラッシュアップライフ』の主人公・近藤麻美と重なる。