『ブラッシュアップライフ』の基となった名作コントの数々
そして、忘れてはならないのが、コロナ禍の無観客配信で行われたバカリズムライブ『◯◯』(2021)のラスネタ「1◯◯」だ。このコントは、舞台中央の椅子に座ったスーツ姿のバカリズムの、次のような「独白」で始まる。
「幼い頃から知識と才能に恵まれていて、どこか達観したような人のことを、人生2周目と形容することがあります。まぁ要は、1周目の記憶を持ったまま同じ人生の2周目を生きてるみたいだということで……(中略)実はここだけの話、僕、そうなんです」
人生100周目のノムラツトムは、1周目からの人生を「独白」で回想する。2周目の乳児期は空気を読んで喋らないでいたり、3周目以降はエリート街道をひた走ったり、途中で科学者になってIPS細胞を発見したりと、様々な職種や人間関係を経験する。まさに『ブラッシュアップライフ』の原型のようなコントだ。
つまり、「1◯◯」がなければ『ブラッシュアップライフ』も誕生していない。同窓会のカラオケで、染谷将太演じるフクちゃんの歌手になる夢を否定していたら、彼の子供は生まれなくなるように、どのコントが欠けても『ブラッシュアップライフ』は生まれなかっただろう。
最後に、バカリズムがコンビを解散して最初に書いたコント「イケなくて・・・」(バカリズムライブ『宇宙時代』特大号、2007)を紹介する。このコントは、自動車に轢かれるSEから始まる。自分の遺体を目の前に、成仏のシステムが掴めずにあたふたする主人公の姿は、まさにトラックに轢かれた直後の近藤麻美のようだ。
「死」という抗いようのないシステムで遊ぶ発想はこのときから健在で、初めてドラマ脚本を務めたフジテレビ『世にも奇妙な物語 2012年秋の特別編』の「来世不動産」もその系譜にある。
「イケなくて・・・」から15年、数々の傑作コントを生み出した結果に、脚本家・バカリズムの今がある。『ブラッシュアップライフ』にハマった人には、過去のバカリズムライブを観ることをオススメする。そしていつの日か、草月ホールにも足を運んでいただきたい。
(文・前田知礼)
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