作曲家・久石譲が
西洋の観客に合わせて楽曲を書き直す
吹き替え版で変更されているのは、物語の内容だけではない。久石譲による音楽も改変されている。
電子音楽家としてキャリアをスタートさせた久石は、これまで多彩なメロディを用いたストーリーテリングが評価され、1982年の『風の谷のナウシカ』以来一貫して宮崎作品の音楽を担当してきた。『天空の城ラピュタ』では、シンセサイザーが多用され、ラピュタの飛行機をはじめとするレトロフューチャーな雰囲気を見事に表現している。
久石は、観客がシーンに没頭できるよう、戦略的に沈黙を用いている。例えば、パズーとシータが天空の城ラピュタを覆う竜の巣に入っていく緊張感の高いシーンでは、シンセサイザーによる曲が流れ、ゆったりと落ち着いた場面ではインストゥルメンタルの曲が多くなる。
宮崎はアメリカを代表する映画評論家ロジャー・エバートとのインタビューで、「私は、一瞬で物語の緊張を一気に高めることができる。逆に、常に高いテンションを保っているだけでは、ただ麻痺してしまうだけだ」と、述べている。
本作で久石譲の音楽が流れているのは、2時間4分の上映時間のうちの約1時間だ。つまり、沈黙や間も宮崎にとって大切な表現の一つで、この時間の長さは彼の心情を表しているのだ。
しかし、吹き替え版では、ディズニーのスタッフが「ヨーロッパの観客は3分以上音楽がないと不快に感じる」とアドバイス。これにより、久石はより長いオーケストラ・スコアを作ることを余儀なくされている。