現実に起きた歴史的事件の影響も?
例えば、映画『火垂るの墓』(1988)は第二次世界大戦中の日本が舞台となっている。映画『風の谷のナウシカ』にはそのような歴史的背景はないものの、本作に描かれているいくつかの要素は、実際に起こった出来事に基づいている。
「人間は地球の加害者」という宮崎駿の思想が反映される本作。本作が描く環境問題の焦点は、「毒」を放つ存在が実のところ「毒を浄化」していたということだろう。
本作は、1953年に熊本県水俣市で発見された「水俣病」に大きなインスピレーションを得ている。水俣病とは、水俣湾に垂れ流された化学工業会社の廃液の中に含まれたメチル水銀により、水銀汚染された魚を食べたことが原因となる病気であり、これにより多くの人が亡くなっている。
水俣湾は、「死の海」とされ漁民は漁をやめた。しかし数年後、水俣湾に生息する細菌が水銀を含んだ海の中で独自の進化を遂げ、水銀を食べて分解し、無害なものに変え、海の状態は次第に回復した。そのニュースを見た宮崎駿は衝撃を受けた。
この汚染された水俣湾が菌の独自の進化により回復する人間の犯した罪を自然が償うというエピソードが『風の谷のナウシカ』の腐海の存在を生み出したのだ。