確かな演技力で世間の見る目を変えた“ド根性女優”
●松岡茉優
松岡茉優はハツラツとした女性の役からダークな印象の役まで、幅広く演じ分けることのできる女優だ。10代前半の頃から「おはガール」としてテレビ東京『おはスタ』に出演しており、早い時期からテレビでの露出があったことからイメージしづらいが、実はなかなかの苦労人である。
友人で女優の伊藤沙莉と出演するポッドキャスト番組『お互いさまっす』では、同じく子役出身の伊藤沙莉のことを「エリート子役」とあがめる一面も。
しかし、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演してから潮目が変わる。その後、数々の映画・ドラマで安定感のある芝居を披露し、彼女を見る世間の目は“『おはスタ』のあの子”から“実力派女優”に様変わり。
主演映画『勝手にふるえてろ』(2017)では、日本アカデミー賞で、優秀主演女優賞受賞。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルム・ドールを獲得した映画『万引き家族』(2018)では、風俗店でアルバイトをする少女役を文字通り体当たりで熱演。ヌードも辞さない芝居は高く評価され、第42回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。同年の日本アカデミー賞では『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞にも選ばれており、松岡茉優の独壇場となった。
そんな松岡茉優だが、上記2作品を凌駕する作品をご紹介したい。
●松岡茉優の演技を堪能するためのお勧めの一本
『愛にイナズマ』(2023)
出演する作品ごとにその存在感を発揮する松岡だが、中でも彼女の女優としての才能が爆発したのが映画『愛にイナズマ』だ。
松岡茉優演じる折村花⼦は、映画監督を目指す26歳。しかし夢を掴む直前で、無責任なプロデューサーに騙されて監督デビューの機会を失う。
生活費は底をつき、温めてきた企画も奪われた花子は、バーで出会った男・舘正夫(窪⽥正孝)に励まされ、再起を懸けて10年間音信不通だった父(佐藤浩市)と兄たち(池松壮亮・若葉⻯也)を巻き込み、映画を撮ることを考える。という内容だ。
石田裕也監督渾身のオリジナル脚本と圧倒的な熱量で紡がれた本作。役者たちにかかる期待も大きかった。
あくまでも筆者の感想ではあるが、先述した通り『勝手にふるえてろ』『万引き家族』の出演時に比べ、松岡茉優の芝居は格段にレベルアップしている。主人公・花を表現する上で、いたずらに感情を放出するだけではなく、自身の内面にキャラクターを練り込むことによって生まれる静かな迫力が本作における松岡の芝居からは感じられるのだ。
物語と役者、全てがベストマッチし、何が欠けてもなし得なかったと感じさせる本作は、近年を代表する日本映画といっても過言ではないだろう。