いつの間にか観客の心を掴む演技スタイルは唯一無二
●橋本愛
橋本愛といえば、クールでナチュラルな芝居が魅力だ。10代から芸能活動を始めた橋本は、ティーン雑誌『Seventeen』を経て、女優として活動を開始する。
そのミステリアスな雰囲気と小沢健二の楽曲をイメージさせるようなサブカル感を併せ持つ橋本は、歌手・大森靖子の「ミッドナイト清純異性交遊」「君と映画」のMVに出演。『堕教師』ではコラボ歌唱を果たした。
さらに、生粋の映画好きとしても知られ、偏愛する作品としてレオス・カラックス『汚れた血』やエドワード・ヤン『恐怖分子』といったアート系映画の名作を挙げつつ、日活ロマンポルノの巨匠であり、日本映画史において類稀なる個性を持つ神代辰巳の監督作をフェイバリットに挙げるなど、その映画愛は筋金入り。
豊かな映画史的な知識に裏打ちされた橋本の芝居にはどんな役を演じていても品がある。一方で観る者に「この人、何を考えているんだ?」と思わせる余白がある。
異物感と掴みどころのなさを感じさせつつ、いつの間にか観客の心を掴む演技スタイルは唯一無二と言っていいだろう。また、テンションの低い役柄はもちろん、テンションの高いキャラクターを演じることで、独特の笑いを生み出すことにも長けている。
2024年公開の『熱のあとで』では、ホスト狂いが高じ、男を刺した過去を持つ女に扮し、理性と狂気の狭間で揺れる役柄を怪演。今後のさらなる躍進に期待が集まる。
●橋本愛の演技を堪能するためのお勧めの一本
『告白』(2010)
橋本愛の原点にして頂点と言えるのが『告白』だ。
本作は、娘を自分の生徒に殺された中学校教師(松たか子)が、HIVに感染したというパートナーの血液を犯人の生徒の給食に混入し、復讐していくミステリー映画。
橋本が演じたのは、犯人の少年と恋仲になり、のちにいじめを受ける少女・北原美月。当時14歳とは思えないほどの落ち着きと演技力で見事に演じきった。
映画出演は自身2本目となるのだが、それを差し引いてもすでに女優・橋本愛が出来上がっていることに驚く。この頃演技は独学で学んでいたというから驚きだ。
加えて、モデルであるというポテンシャルを活かした衣装の着こなしにも目がいく。ファッションの流行り廃りの移り変わりは激しいが、2010年に製作された本作における橋本の衣装は今観てもなかなかに尖っている。それはひとえに橋本愛の着こなしが非凡であるからに違いない。
(文・野原まりこ)
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