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「戦後最悪の連続殺人犯」西口彰の半生を描いた衝撃作

『復讐するは我にあり』(1979)

監督:今村昌平
脚本:馬場当、池端俊策
キャスト:緒形拳、三國連太郎、ミヤコ蝶々、倍賞美津子、小川真由美

【作品内容】

1963年から1964年にわたって、全国を股に掛けながら詐欺などを働きながら5人を殺害した「戦後最悪の連続殺人」西口彰事件に基づいた佐木隆三のノンフィクション小説(佐木本人は「フィクション」としている)の映画化。

とにかく佐木の圧倒的な取材力と、その描写に圧倒される。もちろん、緒形拳、三國連太郎といった一流俳優の力があって、それが表現されていることも強調されるべき。黒木和雄、深作欣二、藤田敏八といった名監督らと競った末、世界的な評価の高い巨匠・今村昌平が映画化権を獲得したというエピソードも納得できる題材だ。

監督を務めた今村昌平Getty Images

原作者の佐木隆三は1937年に旧朝鮮に生まれ、北九州で育った。戦後のカオスが残る日本において、女性蔑視、朝鮮人差別、クリスチャンへの風当たりなどは未だ色濃く残っていた。さらに、日本政府の統治が九州の地まで届いていない“無法地帯”のような時代だったことが、彼の筆致からは感じとれる。

「復讐するは我にあり」とは聖書から拝借したフレーズだが、本作の主人公は罪もない人々を淡々と殺し、人を欺きながら逃げ延びていく。その心根は何処にあるのか…。

常人には理解しがたいが、一つ言えるのは、こうした愉快犯的な殺人鬼は、時代に関係なく現れてくるもの。オウム事件、相模原養護施設での大量殺人、池田小事件など枚挙にいとがない。これらの事件を映像化するにはまだ時間が必要ではあるが、“狂人”にスポットを当てた、次なる作品を、賛否両論を覚悟で製作する映画人の出現を待ちたい。

実際に、韓国人初のアカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督は、本作に影響を受けたという。被害者のトラウマに配慮する事も重要だが、それを記録することが凶悪事件の風化を防ぐ手立てでもあると感じるからだ。映画としてももちろん名作であるのに加え、“記録映画”の役割も果たしている作品とも言える。

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