アニメならではのユニークな演出
全12話で放送されたTVアニメ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』。原作を大切にしながら『チェリまほ』の世界を丁寧に描き、既存のファンに幸せを届けた一方で、新たな『チェリまほ』ファンを多く獲得したことも印象深い。
『チェリまほ』は絶妙な面白さが詰まった優しいラブコメであると同時に、安達や黒沢をはじめとした登場人物の心の機微にそっと触れることができる。
物語の序盤では、主人公である安達が黒沢からの好意に戸惑いながらも、ただの同僚だった黒沢と徐々に仲を深めていく。
“心を読める魔法”により、完璧を装う黒沢の隠れた魅力がダダ漏れになるのだが、その心の声や豊かな妄想力も鮮やかに描かれた。黒沢の純粋な優しさや可愛らしさ、心の声のマウンティングからも分かる狭量なところも含めて、アニメでも最大限に楽しませてくれている。
心の声については、弾幕の描写や原作の作風を受け継いだ文字の演出などアニメでの表現の幅も魅力。また、“一定の文字数を超過した妄想は映像化する”設定を見事に生かし、抜群の面白さと安達の可愛さを発揮している。
魔法に関してはアニメオリジナル設定も採用されており、原作で強すぎる心の声は“水伝導”するという温泉の場面があるのだが、アニメでは場所をサウナに変えて“水蒸気伝導”へとユニークな改変。まさかの水蒸気でも伝わる設定に度肝を抜かれた。
そして、黒沢優一作詞・作曲「デート」に衝撃を受けた人は多いはず。アニメでの再現に期待が寄せられていたが、想像を遥かに超える、まさにミュージカルのような仕上がりに大反響を呼んだ。
ポップな曲調で華麗に舞い、安達との初デートに浮かれまくる黒沢の喜びが詰まった名曲となった。本作はコミカルへの振り切りが素晴らしく、ラブストーリーを描く作品全体のバランスが絶妙である。