故郷の北海道を舞台にワケあり男を好演
『ぶどうのなみだ』(2014)
監督:三島有紀子
脚本:三島有紀子
出演:大泉洋、染谷将太、安藤裕子、田口トモロヲ
【作品内容】
北海道・空知で暮らすアオ(大泉洋)と、弟のロク(染谷将太)の生活が描かれる。アオはワイン職人であり、父親の残した木からぶどうを収穫している。一方のロクは、小麦を育てている。そんなある日、キャンピングカーに乗った旅人・エリカ(安藤裕子)が2人の前に現れ、平穏な日々に変化が生じていく…。
【注目ポイント】
まず特筆しておきたいのは、今作で大泉洋が演じた役柄には、コメディーリリーフ的な要素が一切なく、シリアス一辺倒であるという点だ。とはいえ、ヒリヒリしたシビアな映画なのではない。北海道・空知の牧歌的で雄大な田園風景が全編を通して映し出され、画面を眺めているだけでゆったりとした気分に浸れる。
エリカは何の前ぶれもなく現れるわけだが、演じる安藤裕子の妖艶な雰囲気にも注目したい。シンガーソングライターとして知られる彼女だが、観る者はその高い演技力に驚かされることだろう。キャスティングをした三島有紀子監督のセンスが光る。
エリカを中心にロクや地元の仲間たちは、毎日のように集まり、キャンピングカーの前で、アオが作ったワインで乾杯する。その光景はなんとも微笑ましく、思わず一緒に「乾杯!」と言って、その場に混ざりたくなるほど。アットホーム感満載の描写も魅力的だ。
さらに、お互いワケありな過去を持つアオとエリカが心を通わせ合う過程も見応え抜群。大泉洋と安藤裕子の卓越した表現力によって、「人を好きになってゆく過程はこういったものなのだ」と納得させられてしまうだろう。