病と闘いながら演技に挑みハリウッドスターを食った
『ブラックレイン』松田優作(佐藤浩史役)
製作年:1989年
製作国:アメリカ
監督:リドリー・スコット
脚本:クレイグ・ボロティン、ウォーレン・ルイス
キャスト:マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア、高倉健、ケイト・キャプショー、松田優作、神山繁
【作品内容】
ニューヨーク市警察のニック(マイケル・ダグラス)とチャーリー(アンディ・ガルシア)は、ニューヨークで日本のヤクザの抗争に巻き込まれる。
ヤクザを殺した犯人・佐藤浩史(松田優作)を逮捕した2人は、彼を日本へ送還させる任務を負うが、大阪府警に偽装した佐藤の仲間に騙され、引き渡しに失敗。
その後、大阪府警の松本正博(高倉健)と協力し、佐藤らヤクザと戦っていくのである。「エイリアン」「ブレードランナー」などを手がけたリドリー・スコットが監督を務めた。
【注目ポイント】
松田優作演じる佐藤は、ミステリアスでいながら凶暴な男だ。序盤、佐藤はニューヨークの店で抗争相手のヤクザの首を切り裂き、鮮烈な登場を果たす。飄々とした態度だが行動に迷いはなく、一挙手一投足に狂気を感じさせる。
ニューヨークで逮捕され、勾留されていても佐藤は不遜な態度を崩さない。日本への移送中や身柄引き渡しの際も不敵に微笑み、言葉は多く発さないが表情で刑事を挑発する。佐藤は物語の中心にいながらも、なかなか姿をあらわさないため、観客は俄然彼に興味を引かれるのだ。
一方、ニックの相棒であるチャーリーをバイクで囲み、刺殺するシーンは極悪非道そのもの。手が出せない状況のニックをあざわらうような振る舞いは、悪そのものであり、松田優作は観客をも怒りに駆り立てる名演を披露している。
佐藤を演じた松田優作は、今作が念願のハリウッドデビューとなったが、残念なことに本作が遺作となってしまった。以前からガン宣告をされていながら、延命治療を拒否し、撮影に臨んでいたという逸話もある。
松田優作という日本を代表する役者が、まさに命を懸けて演じたのが佐藤である。死を覚悟したような凄みのある芝居は今だに語り草。マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアといった第一級のハリウッドスターに引けを取らないどころか、時に圧倒するような存在感をフィルムに刻みつけている。