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非情な描写のつるべ打ち…戦争の恐ろしさを描いた傑作

『火垂るの墓』(1988)

スタジオジブリの高畑勲監督
高畑勲監督Getty Images

【作品内容】

太平洋戦争末期、兵庫県に住んでいた清太と妹・節子は空襲で母も家も失い、西宮市の親戚の家に身を寄せることになる。だんだんと居心地が悪くなった清太は節子を連れて家を出て防空壕で暮らし始めるが食料が得られず、節子は徐々に栄養失調で弱っていく。節子は終戦から7日後に生涯を閉じ、清太も栄養失調で亡くなる。

【注目ポイント】

映画『火垂るの墓』(1988)はかつて地上波でも頻繁に放映されていた、巨匠・高畑勲の代表作である。悲惨な戦争下を生きる健気な兄妹の日常が描かれるが、救いのない展開に「もう見たくない」と、トラウマを抱いている人も少なくないだろう。

本作を反戦映画として捉える声に対し、生前の高畑勲監督は否を唱え、戦争の時代に生きるごく普通の子供がたどった悲劇の物語を描いた、と「戦争反対」といった単一のメッセージに収まらない、普遍性をもった物語であることを強調している。

この作品が「鬱アニメ」と言われるのは、描写・セリフがあまりにも非情だからだ。節子が弱っていく様子、清太が周りに馴染めず孤立していく様子が、丁寧に描かれる。節子がドロップと間違えておはじきを口にするシーンなど、なんていじらしく、残酷な描写だろう。原作者である野坂昭如の優れた筆力に拠るところも大きい。

「鬱アニメ」と言われるが、戦争直後の凄惨さを若い世代に伝える意義は計り知れない。ハッピーエンドの明るい作品ばかりを見るのもいいが、本作のように暗いアニメを観ることで得られるものは大きい。

例えば、孤立を深めていく清太の姿からは「人に頼ることの重要性」を教えられる。また、「みんなで寄り添って生きよう」というメッセージがはらむ全体主義的な雰囲気からあえて飛び出す勇気も学ぶことができる。本作は、個人主義がはびこる令和の今、観ることでより一層深く胸に響くはずだ。

「鬱アニメ」と呼ばれる作品がもてはやされるのは、前提としてアニメに「ハッピーエンド」を求めている人が多いからだろう。「すっきりしたい」とか「笑いたい」とか「推しが尊い」とか…視聴後にポジティブになりたい人がマジョリティだ。

一方でバッドエンドな鬱アニメの本質は「リアリティー」だ。現実はうまくいかないものなのである。それを脚色なしで描くと鬱アニメと呼ばれる。だからみんな「アニメくらいは明るく見たい」とハッピーエンドを求めるのかもしれない。

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