トランスジェンダーの人生と育児放棄された少女が織りなす人間ドラマ
『彼らが本気で編むときは、』(2017)
製作国:日本
監督:荻上直子
脚本:荻上直子
キャスト:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦
【作品内容】
母親が家出してしまい置き去りにされた11歳のトモ(柿原りんか)が、おじのマキオ(桐谷健太)の家を訪ねると、彼は恋人のリンコ(生田斗真)と生活していた。トランスジェンダーのリンコは、トモにおいしい手料理をふるまいながら優しく接する。リンコは、老人ホームで介護士として働いている。母親よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いを隠しきれないトモだったが…。
【注目ポイント】
トランスジェンダーの2人と育児放棄された少女が織りなす人間ドラマ。トランスジェンダーに加えて、ネグレクト(児童虐待)という社会問題を絡ませている。重苦しくなりがちなテーマではあるが、荻上監督特有のオフビートな演出によって、リアリティを損なうことなく、時にはコミカルに、その生活ぶりを描いている。
長い間生きづらさを抱えながら生きてきたトランスジェンダーのリンコは、それらを乗り越えてきたからこその優しさを内に秘めている。そんなリンコは虐待被害者であるトモに対して、自分の娘のように接する。
LGBTQが主たるテーマであることは否定のしようはないが、そこに加えて、人としての優しさであったり、母性といったものが、本作が伝えたかったメッセージなのだろう。リンコの母親は息子のことを理解しようと努力する一方、トモの同級生の母親はトランスジェンダーに対し、全く理解を示さず、男の子に思いを馳せる息子を自殺未遂に追い込んでしまう。
LGBTQに対する理解は進みつつある現在でも、こうしたマイノリティの生きづらさは残り、理解して温かく接しようとする人と、理解できずに傷つけてしまう人もいる。実際にトランスジェンダーの問題は難しく、道半ばの人権問題である。本作は、LGBTQに対する理解を深める上で有用な作品だと言えるだろう。