末期ガンに冒された父からカミングアウト
生きる勇気をもらえる珠玉のヒューマンドラマ
『人生はビギナーズ』(2010)
原題:Beginners
製作国:アメリカ
監督:マイク・ミルズ
脚本:マイク・ミルズ
キャスト:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、ゴラン・ビシュニック
【作品内容】
38歳にして独身で奥手なオリバー(ユアン・マクレガー)は、母に先立たれ5年がたったある日、ガンの宣告を受けた父・ハル(クリストファー・プラマー)からゲイであることをカミングアウトされる。
同時に様々な人生の楽しみを探し始め、恋人のアンディ(ゴラン・ヴィシュニック)や、ゲイの友人たちに囲まれて幸せそうに過ごすようになった。父親の突然の行動に戸惑いを隠せないオリバーだが、老いてなお人生を楽しむ姿に影響を受けていく。
ほどなくして、ハルは末期ガンであると診断され、亡くなってしまう。ハルの死後、あるパーティーでオリバーはフランス人女性アナ(メラニー・ロラン)と出会う。アンディと出会ったハルの姿を見ているオリバーは、勇気を出してアナと付き合い始める。
オリバーはハルの死と亡き母と結婚した理由について納得できずにいたが、アナもまた精神的に不安定な父親について葛藤を抱えていた。共に父親に対して複雑な感情を抱く者同士、最初は恋愛にも悪影響が及ぶが徐々に一緒に解決していこうと歩み出すようになる。
【注目ポイント】
ストーリーの中心となるのは、ゲイであることをカミングアウトした高齢の父・ハル。それを機にガンでありながら表情をより豊かなものへ変貌させていく姿には、一種の憧れを抱かずにいられない。
そんな父の姿、家族の肖像を散りばめながら、息子のオリバーの視点で展開していく。フラッシュバックする記憶、母の面影、一歩踏み出せずにいる自分…。そんな自分の姿を見つめ直すオリバーの成長の物語だ。その姿はまさに38歳の“ビギナー”といえよう。
本作において、LGBTQはストーリーが展開していく“きっかけ”に過ぎず、トランスジェンダーを問題として扱ってはいない。しかしながら、だからこそ普通に人生の中において、LGBTQが普通に存在し、考え方の押し付けもない同作は、観た人を爽快な気分にさせてくれる作品に仕上がっている。