新しい形の時間映画
笑いと涙を誘う隠れた名作
『1秒先の彼女』(2020)
製作国:中国
上映時間:119分
監督:チェン・ユーシュン
脚本:チェン・ユーシュン
出演者:リー・ペイユー、リウ・グァンティン
【作品内容】
郵便局で働くヤン・シャオチー(リー・ペイユー)は、郵便局勤務のアラサー女子だ。
何をするにもワンテンポ早いところがある。かけっこ、なわとび、映画を観て笑うタイミング。そんな彼女に、バレンタインデーに転機が訪れる。イケメンダンス講師(ダンカン・チョウ)に、デートに誘われるのだ。
しかし、デートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日で…。
【注目ポイント】
『熱帯魚』(1995年)、『ラブゴーゴー』(1997年)などで知られる台湾のチェン・ユーシュン監督の作品である。
本作は、中華圏のアカデミー賞と呼ばれる金馬奨で最多の5冠(作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞)を獲得している。
「なぜ、デートの約束をしたはずのバレンタインデーは、消えてしまったのか?」
消えた1日を巡るヤン・シャオチーの推理旅行と、もう一人の主人公ウー・グアタイ(リウ・グァンティン)が起こした行動の2つの視点で、物語は展開される。
何をするにもワンテンポ早いヤン・シャオチーと、何をするにもワンテンポ遅いウー・グアタイ…。
テンポが遅いウー・グアタイの時間は、ほかの人よりも数秒だけ時間が長いため、「24時間の貯金」という形で利息が付く。彼はそのご褒美を使い、自分の商売道具であるバスで、初恋の女性ヤン・シャオチーとの不思議なデート時間を持つことになるのだ。
タイムパラドックス的な要素もあるが、従来のタイムスリープものとは異なる、新しい形の映画といえるだろう。そんな本作では舞台が「夏」だからこその仕掛けもあり、夏の気分に浸りたい人にも打ってつけ。笑いとともに、ほろりとさせるところもある、隠れた名作だ。
2023年には山下敦彦監督、宮藤官九郎脚本で、男女の設定を逆転させた日本版リメイクも作られている。興味のある方はぜひ見比べてみてほしい。
(文・シモ(下嶋恵樹))
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