泣きの芝居が上手すぎる…。複雑な立場と心境を繊細に演じきる
『海のはじまり』(フジテレビ系)有村架純
脚本・生方美久×監督・風間太樹×プロデューサー・村瀬健がタッグを組んだ、ドラマ『silent』チームの最新作『海のはじまり』。『silent』(フジテレビ系、2022)で俳優として名を上げた目黒蓮が主演を務めるとあって、放送前から注目を集めた。
本作は、目黒演じる主人公の夏が、学生時代の恋人・水季(古川琴音)の死から6歳の娘・海(泉谷星奈)の存在を知ることからはじまる、親子や家族の愛の物語。
学生の妊娠、中絶、子宮頸がんといったセンセーショナルなテーマを含んでいることもあって賛否はわかれているものの、映像の美しさ、作中に出てくる言葉と言葉の繋がりや隠喩表現など、生方作品らしい繊細さが随所に垣間見える。ゆえに、心理的に受け入れがたい価値観が提示されても、大きくネガティブな方向には振り切らない。また、俳優陣の丁寧な人物造形も、それを後押ししている。
複雑な背景を持つ登場人物たちの中でも、有村架純が演じている弥生は特に難しい役どころだろう。夏の現在の恋人であり、かつて恋人との間にできた子どもを中絶した過去を持つ。夏に話すよりも前に視聴者に提示された“弥生の過去”によって、一気に“可哀想”の烙印を押されてしまった。それを、有村は静かな哀しみをもって表現した。
弥生が子どもを諦めざるを得なかった恋人や母親の反応に対し、反論はせずに静かに受け止める。人の気持ちを先回りするとき、弥生の目はどこか空を見ているように見える。視線が定まっていない、といおうか。それとは対照的に、海の母親になろうとするときの彼女からは強さが感じられる。自分が失ったものを取り戻そうとする人の強さだ。
水季の話ばかりする夏と、弥生は果たしてどんな未来を描いていくのか。有村の泣きの芝居が巧みであるがゆえに辛くなってしまうからもう観たくないような、湯船でシャワーを浴びながら見せたあの息苦しくなるような涙をもう一度観たいような、複雑な気持ちだ。