日常に潜んだ恐怖を描く
シーズン20 ある晴れた日の殺人(第16話)
本作は“サラリーマンなら誰しもに身につまされる恐ろしさ”を描いている。
会社の屋上で社員の中松が刺殺される事件が発生。警察が集まる中で「俺が殺してやった!」そう思い、不敵に笑う謎の男がいた。特命係も捜査に乗り出し、容疑者を中松の同期、部下、妻の3名に絞るがそこに謎の男はいない…。そして右京が導き出した結論は、中松は自殺したというものであった。
中松は窓際部署で返り咲こうと出世した同期の不正を暴こうとするが部下に裏切られ失敗し、妻は不倫をして離婚を切り出されるなど人生に絶望して自殺したと結論付ける。「それは違う!!」そう叫ぶ謎の男…その正体は死んだ中松本人。彼は思念として留まっていたのである。
同期は部下達を救う為に不正をしていたが自分は私欲しか無かった事、部下は優しくしていなかったがいざ裏切られると動揺し、妻や家庭を顧みることがなかったのに退職後の希望をそこに抱いていた浅ましさ…そんな自分自身が憎くてたまらなくなり自らを殺したのである。
右京は中松は生きたがっていたが孤独には勝てなかったと推測。特命係が去った屋上には誰もおらず、ただ風が吹くだけとなった。
『相棒』では時に人間社会の冷たさを描いた作品がある。本作もその中の一つであるが、大きく違うのは中松は決してお金には困っていなかったという事だ。
日本には約3,500万人(2024年6月時点)のサラリーマンがいて、会社や家庭の中で奮闘している。しかし奮闘の仕方を一歩間違えれば孤立して自己肯定感をドンドン無くしていき、更にそれも全て自責で捉え過ぎ、這い上がる事も出来なくなる負のループに陥ってしまう。
そしてこの孤独は傍目にはわからず隣にいる人が感じている可能性もある。働く人間誰しもが明日中松のようになってもおかしくない。それをドラマチックかつわかりやすく…そして恐怖も混ぜ込んでいるのが本エピソードの白眉である。
復活した亀山薫に抜かされはしたものの、当時は歴代相棒1番の話数を誇った冠城亘。時には熱い熱血漢、時には頭の良い秀才、時には若手警察官としての未熟さ、しかし、これらに隠れてはいるが、実は誰よりも真実の為なら手段を選ばないダーティーさの持ち主でもある。多彩な顔を持ち合わせいるからこそ、皆から愛されたのであろう。
まだ冠城は亀山とは出会っていないが、既に神戸と青木と陣川は登場しカイトも言及されているのでいつか再登場していただき、2人の絡みも是非見てみたい。
(文・Naoki)
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